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『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter 15:~ Good luck , Your life with Happiness (さようなら、友よ)~
112/205

#3.Louvre Museum(首都の美術館にて)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「ふぅ~、危ないところだったぜぃ」


 私は昨日のことを思い出しながら、人知れずため息をつく。

 時計塔の執務室に現れた二人。爆炎のミリアさんと、狙撃のスナイベル。『13人の悪グリム魔を狩る者・リーパー』である彼らが関わっているとなれば、無茶苦茶に面倒な案件に違いない。なにせ、悪魔狩りの専門の殺し屋だ。


 そんな彼らに関わったところで、ロクなことにならないだろう。危機回避の本能が見事に働いたのか、彼らのことを見た後の私は、実に機敏だった。


 退避&離脱。具体的に言えば、二人のことを見ながら営業スマイルを浮かべて、他愛ない挨拶をしながら、そそくさと逃げ出していた。


 背後から、アーサー会長が呼び止める声がしたような気がしたけど、たぶん気のせいだろう。私は階段をひとつ飛ばしにしながら、全力で逃げだしていた。ミーシャ先輩が作戦会議に参加したくなったのも、よくわかった気がする。


 そして、翌日。

 私は首都にある美術館にやってきていた。


 この国が誇るルーブル美術館。別に、美術品を鑑賞する趣味はない。これは学校行事だ。全校生徒で首都の国立美術館へと行く学校行事に参加していた。本当のことを言えばサボってしまいたかったけど、東側に所属するプロのスパイとして、あまり目立つことはしたくない。


 美術館の正面入り口にあるピラミッドみたいなオブジェ。その前で全校生徒が集まって点呼をしている。もちろん友達のいない私は、いつものようにボッチ行動だ。


 ……おい、見ろよ。ナタリアさんが一人でいるぞ。誰か声を掛けにいけよ。


 ……馬鹿をいうな。あの子の隠れファンは多いんだぞ? ここで抜け駆けしようものなら『ナタリアちゃんを遠くから見守る会』に血祭りにされるぞ。


 なんだか、変な視線を感じる気がするけど。

 私はきょろきょろと辺りを見渡すが、慌てて視線を外す男子生徒ばっかり。……ちくしょう、そんなに私のことが嫌いなのか!?


「いいもん。一人で回るから」


 ぐすん、と込み上げてくる涙をふいて。

 私は一人で美術館の中へと入っていった。


 首都の美術館は、とても広い。

 どれくらい広いかというと、すべての展示物を見るのに一週間はかかるほど。宮殿とも呼べるような豪華な造りに、歴史の重さを感じさせる内装。私としては、古い芸術品よりも。軽快なJAZZでも聞きながら、のんびりとコーヒーでも飲んでいたいんだけど。


 そんなことを思っていると、お土産コーナーの隣にあるカフェルームが見えた。

 熟練のバリスタが真剣な目でコーヒーを淹れている。おっ、気が利くじゃないか。そんなことを思いながら、引き寄せられるように向かうと、そこには意外な人物が立っていた。


「あれ? カゲトラじゃん。来てたんだ?」


「……なんだ、ナタリアか」


 顔に火傷の跡のある男子生徒、カゲトラ・ウォーナックルが肩をすくめている。同じ年とは思えない身長に、制服の上からでもわかる鍛えられた身体。野生動物のように、無駄のないしなやかな体格だ。そんな彼の手には、コーヒーカップが握られていた。


「へぇ、意外。あんたみたいな奴は、こんな学校行事に参加するなんて」


「来る気はなかったさ。俺がいると、他の生徒がビビッちまうからな」


 なんだ。自覚はあったのか。

 お前みたいな喧嘩上等の不良がいると、私までも同類に思われるから困っているんだぞ。


「ふーん。なんか言いたいことがあるみてぇだな」


「き、気のせいじゃない?」


 私は吹けもしない口笛を吹く。


「……今日、ここに来たのは。ウチの大将の指示があったからだ


「アーサー会長の? なんで、また?」


「さぁな。よくわからないが、……警戒だけはしておくように、と言われた」


「何かあったら、学生たちを守れってこと?」


「そこまでは言われてない。……だが」


 ちらり、とカゲトラが私の持っているものに目を向けた。


「お前も似たようなことを言われたから、そいつを持っているんだろう」


「……ふん」


 私は不機嫌な顔になって、視線を外に向ける。


 私が手に持っているのは高級楽器メーカーAMATIのヴァイオリンケース。もちろん、その中に入っているのはヴァイオリンではない。


 試作型の消音狙撃銃。特殊な銃弾を使用することで、銃声を極力抑えることに成功したマルチライフルだ。400メートルまでの狙撃を可能にして、フルオートでの射撃もできる。


「言っておくけど、何があっても私は助けないから。自分の命が一番大切だもの」


「あぁ、それがいい。お前は弱いからな」


 カチンッ、とカゲトラの言葉が神経を逆撫でる。

 そりゃ、あんたみたいに。拳ひとつで悪魔を殴り飛ばすことはできないけど。こっちは普通の女の子として精一杯に生きているんだぞ。もし、お前がピンチになっても、絶対に助けてやらないからな。


「そういえば、ミーシャの姉御も来てたな」


「ミーシャ先輩まで? なんでまた?」


「知るかよ。それに、アーサーの大将まで後で合流するって話だし。いよいよ大事になってきたな。まったく、面倒ごとにならなきゃいいんだが」


 それは、お前も同じだろうが。

 悪魔を拳だけで殴り飛ばして、泣いて土下座までさせるような奴だぞ。


 それにミーシャ先輩だって、まともな人間とは言い難い。

 悪魔を滅ぼす魔法を使える、悪魔殺しの姫。暴虐武人の黒髪先輩。たまに、天使の末裔とか呼ばれていたりするけど、実のところよく知らなかったりする。……あの人の性格が悪いこと以外は。


「とにかく、お前も気をつけておけ。何かあったら、すぐに逃げろよ。あとは、俺たちが何とかするから」


「へいへい。それは頼もしい限りで」


 私は小バカにしたように肩をすくめると、カフェルームから離れていく。


 そんな大事件なんて、そうそう起きるわけがないだろうが。ここは首都が誇るルーブル美術館だぞ。誰が好きこのんで、こんな場所で事件を起こすんだ。悪魔だって、それくらいの空気を読めるっての。


 そんな呑気な気分で、私は美術館のエントランスへと向かっていった。

 手に持っている、ヴァイオリンケースを握りしめて―



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― 新着の感想 ―
[良い点] なにやら大事の予感ですね
[気になる点] ミーシャ先輩が作戦会議に参加したくなったのも →参加したくな か ったのも 前話の内容からおそらく、こちらではないかと思います。 [一言] 主力全員集合、負けイベントの予感が。
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