表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter 15:~ Good luck , Your life with Happiness (さようなら、友よ)~
111/205

♯2. Load(悪魔卿)


 時計塔の執務室には、他のメンバーはいない。


 ミーシャ先輩は掃除当番だと言ってたし、カゲトラは顔を出さない時も普通にあるけど。意外なのは、あの黒服兄弟もいないことだった。普段なら、アーサー会長の書類仕事を手伝っている印象があるけど。……お使いにでも行っているのかな?


「ナタリアさん。どうも君には、悪魔が関わっている事件と変な縁があるようだから。改めて、ちゃんと説明をしておこうと思うんだ」


「はぁ。何についてですか?」


「この街にいる悪魔について、だよ」


 アーサー会長はこちらに歩いてきて、私と向かい合うように座る。ピリッ、といつになく真面目な顔をしていた。


「君に話したこともあるけど、この首都にいる悪魔たちは。一年前に起きた大災害、『悪魔の証明』事件が切っ掛けて呼び出された存在なんだ」


「そういえば、そんなことを言っていましたね」


 この首都を跋扈する悪魔たちは、昔からいたわけではない。

 とある事件によって引き起こされた人災であると。その内情は、東側のスパイである私も、まったく知らなかったことだった。


 ……そして、この身体の持ち主。

 ……ナタリア・ヴィントレスを巻き込んでしまったのも。全ては悪魔が元凶だ。


「『悪魔の証明』。その事件の首謀者は、すでに捕まっていているんだ。その人物は、誰も知らない刑務所で、24時間の監視体制で幽閉されている」


 そして、その時に呼び出された悪魔の数は、666体だと言われている、とアーサー会長は言った。


 数が不確かなのは、呼び出した本人が自供しているだけで、確かめる方法がないからだそうだ。


 悪魔は人間社会にとって脅威だ。

 だが、これまでの戦いを振り返ってみればわかるけど、悪魔に対抗できないわけではない。むしろ、打ち勝つこともできる。


 時計塔が誇る『No.ナンバーズ』や、悪魔狩りを専門としている『13人の悪グリム魔を狩る者・リーパー』。悪魔たちと戦う組織も、こうやって存在しているのだから。


「問題は、ここからだ。呼び出された666体の悪魔たち。そんな彼らとは一線を画する存在がいる。能力も実力も、そして異常性も。他の悪魔とは格が違う」


 悪魔を越えた超越存在。

 666体の悪魔を上回る実力者。


「それが、……5人の『悪魔卿ロード』たちだ。彼らは強い。現在、こちらで確認している悪魔卿ロードは3人。残りの2人は存在が不明とされている。現在も、『13人の悪グリム魔を狩る者・リーパー』を筆頭に、残った悪魔卿ロードを捜索している」


「へぇ。でも、強いって。どれくらいなもんなんです?」


 私はマグカップのコーヒーを、ずずっと啜りながら気軽に尋ねた。


 そして、それに対して。

 アーサー会長は感情を感じさせない声で答えた。


「そうだね。まず基本的に、彼らを倒す・・・・・ことはできない・・・・・・・


「は?」


「つまり、不死身だ」


「……」


「さらにいえば、僕たちの人知を越えている強大な力を持っている。彼らと本気で戦争をしようものなら、この首都が壊滅してしまうだろうね」


「……なんの冗談ですか?」


 私の問いに、会長は乾いた笑みで答える。


「ははは、冗談だったら良かったね。そんな存在が相手だから、僕たちも対応に困っているんじゃないか」


 はぁ、とアーサー会長がため息をつく。


「そして、これが一番の問題なんだけど。彼らは偏執狂といってもいいほど、何かに固執する傾向にある。それも人間とは異なる価値観で物事を語るものだから、実際に手に負えないんだよ」


「あ、会話はできるんですね?」


「言っておくけど、理性のある獣ほど厄介なものはないよ?」


 そこに解決策はない、というようにアーサー会長は即答した。


 そんな悪魔卿ロードが何かをしようとしている。そのための対策会議を時計塔で行うのだと、会長は説明する。


「ミーシャが来ないのは、会議に顔を出したくなかったからさ。黒服のペペとナポリは、会議に参加する人たちを迎えに行っている」


「へー。でも、ここで会議なんて大丈夫ですか? この執務室はそれなりに広いですけど、そんな何十人も入りませんよ?」


「それは大丈夫。会議に出席するのは、二人だけだからね」


「え? 二人」


「うん。君も知っている人たちだよ」


 そう言っている内に、時計塔の階段を上る足音が聞こえてきた。頑丈なセキュリティーが解除させる音がして、執務室の扉が開かれる。


 そして、そこにいたのは―


「ご無沙汰しています、時計塔の会長さん。コルレオーネ・ファミリーの三代目首領。ミリア・プロヴァンス、対策会議に馳せ参じました」


「……ミーシャは、いないのか。せっかく顔が見れると思ったのに」


 ピンク色の髪に、火のついていない長い煙草。黒スーツに身を包んだ背の高い女性、『爆炎のミリア』さんと。


 長い楽器ケースを手に持った、不愛想な男。狩人のような鋭い目を向けている、『狙撃手の男シロー・スナイベル』。


 悪魔を狩る専門の人外たち。

 人間を辞めてしまった怪物ども。

 異形のモノを、いとも簡単に屠ってしまう本物の実力者。


 この首都の、最後の切り札とも呼べる『13人の悪グリム魔を狩る者・リーパー』の二人が。


 私の目の前に立っていた―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あの先輩が逃亡するなんて誰に会いたくなかっただろうねえ
[一言] ミーシャ、親父から逃亡。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ