表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『裏切者のLOST‐No.(ロスト・ナンバーズ)』 ~ナタリア・ヴィントレスは、今日も逃げ出したい~  作者: てばさきつよし
Chapter 13:~The days of Romanee-Contie(ノイシュタン学院盗難事件。赤ワインは見ていた)~
104/205

#3. Case 1(第一の事件)


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 まず、私たちが向かったのは、学園の美術室だった。


 放課後は美術部の部員が使っている教室、奇妙な盗難事件が起きているとのことだ。


「えぇ、そうなんです。いつものようにロッカーから絵筆を取り出そうとしたんですが、それがどこにも見当たらないんですよ」


 コンクールも近いのに、と美術部の女子が困った顔になる。


 ふむふむ、なるほど。

 私は顎に手を当てて話を聞く。気分はすでに探偵だった。助手役であるはずのアーサー会長やミーシャ先輩は、あまり気乗りしないらしく、少し離れたところから話を聞いていた。


「それで? あなたが美術室に入る前に、誰かいましたか?」


 私が、したり顔で問いかける。

 すると、美術部の女子部員は少し考えてから答える。


「あぁ、そういえば。私より先に部長が来ていましたね。この教室の鍵を管理しているのも、部長ですから」


「なるほど、なるほど。それは実に興味深い」


 親身になって話を聞いていた私は、その隣にいる美術部の部長を見る。ひょろっと痩せ型の男子生徒だった。


 そんな痩せ型の部長の前に立って。

 油断を誘うように笑顔を向ける。


「えへへ、あなたが部長さんですか?」


「あ、はい。そうですけど」


 怪訝そうに首を傾げる美術部の部長。

 そんな彼に、一瞬の間合いを測って。……そいつの襟首を締め上げていた。


「ふぎっ!? な、なにを―」


「おいおい、惚けんなよ。いくら部長でも盗むのは良くないよなぁ。……おらぁ、てめーが盗んだんだろ? さっさと盗んだものを出しなっ」


 私のドスの利いた声に、一瞬にして美術部の部長は顔が真っ青になった。


「ちょ、ちょっと、待ってください! なんで僕が―」


「あん? 話を聞いていなかったのか? この部屋はいつも鍵が閉まっている。その鍵は、お前しか持っていない。つまり、お前が犯人だ」


 間違いない。


 ありとあらゆる可能性を否定されたとき、とても信じられないことだとしても、残された選択肢が真実である。どこかの有名な探偵も言っていた。ならば悲しいことだけど。こいつが犯人で間違いない。だったら手加減もいらない。


「おらおらっ、さっさと盗んだものを出せや! どうせ叶わない恋心が、彼女の所持品に向いちまったとかだろう! この変態野郎が!?」


「ま、待って、くださ、い―」


「言い訳はいらねぇんだよ。どうせお前が持っているんだろう、時計塔から盗んだ『赤ワイン』をよぉ!?」


 ぎりぎり、と男子部長の首を締め上げる。

 部長の顔色はどんどん悪くなって、今にも泡を吹き出しそうだった。


「わ、ワイン? し、しらない、ぼくは、しらな―」


「おうおう、とぼけるつもりかい? いい度胸だな、部長さんよぉ。こうなったら、直接、体にきいてやろうか?」


 そう言って、私は。

 スカートの中に隠している『デリンジャー』を引き抜こうとする。こいつを鼻先に突き付けてやれば、大抵の奴が大人しくなる。今まで実践してきた経験がそう教えてくれる。


 だが、その直前。

 悲しいほどの悲痛な声が響いた。


「待ってください! その人は犯人じゃありません!」


 それは絵筆を盗まれたという美術部員の女の子からだった。


 は? と呆ける私に、彼女は慌てて男子部長へと駆け寄る。そして、彼を献身的に介抱すると、涙を浮かべた悲しい目を浮かべた。


「この人が盗んだわけがありません。だって、この人は、……私の婚約者なのですから」


「はい?」


 ぽかんと、私は口が開きっぱなしになる。


「私たちは幼い時から将来を誓い合った仲なんです。盗まれた絵筆だって、彼が誕生日にプレゼントしてくれたものなんですよ。そんな大切なものを、この人が盗むわけがありませんよ」


 そう言って、優しく部長の頭を抱きかかえる。


 びくんびくんっ、と痙攣をしながら、口から泡を噴いている美術部の部長。途端にバツが悪くなった私は、とりあえず目の前の現実から目をそらして、吹けもしない口笛を吹く。


 そんな私のことを。

 アーサー会長とミーシャ先輩は、今までにないほど呆れ腐った目で見ていた。


「……ナタリアちゃん」


「……とりえあず、彼を保健室に連れていこうか」


 ぐったりと気を失っている部長を、男子生徒の部員たちが両肩を担いで連れていく。ずるずる、と彼の両足を廊下に擦らせながら。


「あ、あはは」


 私は愛想笑いで誤魔化しながら、自分の失態を誤魔化そうとする。


 だが、その腹の中は。

 まさしく怒りに煮えたぎっていた。


「(……くそっ、あの部長では役者不足だったか! 誰か、誰かいないのか!? 私の代わりに、ワイン泥棒の罪をなすりつけられる人間はよぉ!)」


 その瞳は、まさしく。

 次の犠牲者を探すハンターに違いなかった……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公クソチョロで頭のネジ緩い上に自分の罪を擦りつけようと躍起になるクズさで笑わせていただきましたwこういう奴好きです。
[良い点] 話を聞いてる振りをして罪を擦り付けてるだけだこれ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ