11-50 知っているから
いくら頑張っても、マルの力で守られている良山の事がサッパリ分からない。焦ったテイは玉置へ行き、宝玉の継ぐ子から体を奪おうとした。
ミヨもタマも北山の生き残り。マルに近づき、その力を奪えると考えて。
「ア゛ァァァァァァ。」
作戦、大失敗。
タッタッタッ、ピョーン。パクッ、トタッ。タッタッタッタッ、フリフリ。
「イイコ、イイコ。」
飼い主マルに撫でられ、ウットリとするマルコ。大きくなっても木の枝ポーンが大好き。
「そろそろ村に戻ろうか。」
「ワン。」 ハイ。
大好きなマルと朝の山歩き。
大蛇社を清め、良村からトコトコ歩いて大実社へ。社を清めるマルを守りながら、良山にいる隠たちとオシャベリ。
ルンルンで山歩きを続け、木の枝ポーン広場で楽しく遊ぶ。
夕の山歩きでは舟寄せ場、柞の大木、舟置き場を通って村に戻るが今は朝。広場から村への近道を、罠を避けながらユックリ歩く。
「おはよう、マル。」
「おはよう、タエ。」
良村には口を利けなかったり、上手く話せない子が多かった。なぜ話せないのか、吃るのか知っているから悪く言わない。
だから滑らかに言えず、つっかえたり声が出難かったりしても恥ずかしがらず、少しづつ話すようになる。
マルもカエもタキも挫けなかったから、スラスラと話せるようになった。
「まりゅこ。」
朝の山歩きから戻ったマルコを見つけ、嬉しそうにトコトコ。マルをジッと見つめ、ニコリ。
「ぉたぁり。」
南の地で戦に巻き込まれ、生き残った幼子。共に逃げ出した親に死なれ、食べ物も無くなり一人きり。
誰にも頼れず、どこへ行けば良いのかも分からない。
遠くに家を見つけ、フラフラしながら向かったらボロボロだった。焼け残った家に入って眠ったハズなのに、気が付いたら閉じ込められていた。
隅っこで丸まっていたら他の子と共に出され、どこかへ運ばれた。
「おはよう、アケ。」
「まりゅさ、あぁよ。」
良村に引き取られて直ぐは話せず、犬を怖がっていた。
三日ほどして落ち着いたのかマルコに近づきジィィ。マルから『撫でてみる?』と問われ、コクンと頷く。
少しづつ話せるようになったが己が幾つで、どこの生まれなのか言えない。名だってアヤシイが『アケ』と呼べば応じるので、そう呼んでいる。
「お顔を洗いましょうね。」
「あい。」
今でも他の犬に近づこうとシナイ。人見知りも激しいが、マルとマルコは別。
良村の大人は『早稲の他所の』人と言われ、子らと早稲の外れで暮らしていた。
親に死なれた子は、男も女も長く生きられない。だから皆で助け合い、耐え抜いたのだ。『いつか早稲を出て、新しい村を作る』ことを夢を見て。
大人はモチロン、子も知っているから伝えられる。
誰かが何かを伝えようとしているなら、黙って耳を傾ければ良い。どこか悪いなら手を差し伸べ、支えれば良い。
出来る事をして、出来ない事は出来るようにして、ユックリでも少しづつでも努めれば力が付くと。
他から救い出されたり、逃げてきた人の中には訛ったり吃ったり話せない人、見えなかったり聞こえなかったり、腕や足が動かない人だって居る。
その多くが争いや戦に巻き込まれ、傷ついたり傷つけられたのだ。
体の傷は見えるし癒える。けれど心の傷は見えないし、癒えるまで時が掛かる。癒えないカモしれない。だから見守り、待つ。
己の力で立ち上がり、前を向くまで。