11-48 どちら様?
隠の守マホ、フラッシュバックでガクブル。泡を吹いてバタン。その一時間後。
「ハッ。」
クワッと見開き、ムクッと起き上がる。
「山守へ行かねば。」
フラフラと立ち上がり、山守社へ。
嘘だと言って。
「恐れながら申し上げます。山守神、良く御考えください。」
「ヒャイ。」
「良山に手を出せば終わる、終わるのです。」
クワッ。
「ヒャイ。」
「これは脅しではアリマセン。」
ズズイ。
「ヒャイ。」
「・・・・・・山守社に祝、要りますか?」
山守の祝は皆、祝になるとオカシクなる。祝人も祝女も継ぐ子も同じ。
山守神は『生贄も人柱も要らぬ』と幾度も、幾度も幾度も仰せなのに求める。強い力を持つ者を山守に、攫うように連れ帰らせるのだ。
山守には山守社と祝社、二つも社が在る。
山守社には国つ神で在らせられる山守神、使わしめシズエ。離れには社の司に禰宜、祝、継ぐ子たちが暮らしている。
祝社には祝辺の守と、強い祝の力を生まれ持つ継ぐ子たちが暮らしている。霧雲山の統べる地の長でもある人の守、死んでも力を失わない隠の守。
「山守の祝だったテイ、呪い祝となったテイが祝を狂わせる。祝人も祝女も祝になると狂うのだから、祝にしなければ良い。違いますか。」
マホに迫られ、ビクビク為さる山守神。
「その通りです。けれど祝が居ないと、困る、事が。」
山守神とマホの間に入ったシズエまで、タジタジ。
「祝人頭と祝女頭が居れば、祝が居なくても困りません。祝になれば狂うのですから、テイの呪いが解けるまで山守に祝を置かなければ良い。違いますか。」
マホ、更にググイ。
言っている事は正しい。
祝に就任すれば必ず呪われるのだから祝にせず、祝人頭と祝女頭が助け合いながら祝の務めを果たせば良いのだ。『祝』が居なくても困らない。
何てったって山守には祝辺の守がウジャウジャ、ではなくて大勢いる。
崖を登れなくても大丈夫。隠の守は隠だから、人には行けないトコロへも行ける。
山越烏を従える事は無い。けれど山守社の事は山越烏、祝社の事は平良の烏と今まで通り務めてもらえば良いダケの事。
「山守神。良山には大蛇神の愛し子が居るので、手出ししてはイケマセン。」
「ヒャイ。」
「山守の祝は」
「待ていっ!」
山守神、使わしめシズエ、祝辺の守マホの前に現れたのは・・・・・・。どちら様?
「私が山守の祝だ。良山へ使いを出し、祝の力を持つ者を差し出させる。止めるな! 聞かぬわ。ワッハッハ。」
山守神、シズエ、マホが見合って、静かに溜息を吐いた。
遅かった。もう決まっちゃったよ、山守の祝。やる気だしちゃったよ、山守の祝。テイの呪いを受けちゃったよ、山守の祝。
高笑いしながら駆け出した祝は元、祝人頭。温厚で優秀なヨキはテイに心身を奪われ、別人のようになってしまった。
生命力の塊のような黒いカサカサより、いろいろ強いカモ。
「私たちには止められない。」
社の外で立ち尽くす、社の司と禰宜が呟いた。