11-47 過去の記憶
隠の守マホ。お膝ガクがく、ガックガク。
思い出してしまった。あの御方に、御名を口にしてはイケナイ事はナイ、あの御方のぉぉ!
「とっ、ととっ。」
大蛇神の御力により平良の烏から剥がされ、組み敷かれ縛り上げられ放り込まれた。
愛し子を奪おうとした罰として、根の国の物を口にギュウギュウと詰められ、塞がれたのだ。
「トトトト、トメナケレバ。」
話したくても話せない。
幾ら隠でも根の国の物を飲み込めば、中つ国へ戻れなくなる。隠は闇に強い。闇に呑まれる事も操られる事も見失う事も無いけれど、戻れないのは。
「いぃやぁぁぁ。」
目を閉じなくても見える、ハッキリ見えるのだ。あの、あの暗く冷たくオソロシイ、おっおっ奥津城ぃぃ。
フフ、フフフッ。逃がさない。許さない。思い知れ。フフ、フフフッ。
オギャア、オギャア。止めて。許して。助けて。オギャア、オギャア。
ごめんなさい、ゴメンナサイ。お母さん。帰りたい。死にたくないよ。痛いよぉ。ごめんなさい、ゴメンナサイ。
もう、嫌だ。嫌なんだ。見たくない、聞きたくない。きっと何か、罰を受けて死ぬんだ。そうでなきゃ、おかしい。こんなに苦しいのに。こんなに辛いのに。
フフ、フフフッ。逃がさない。許さない。思い知れ。フフ、フフフッ。
「あっあっ、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
物凄い声で叫ぶマホ。目をひん剥き、耳を押さえながら叫ぶ。
「スイマセンごめんなさい。もうシマセン許してください。助けてください。お願いします!」
良山にはマルが、はじまりの隠神の愛し子が居る。霧雲山に来る娘はマルでは無いと解っているのに怖い、恐ろしい。震えが止まらない。
祝辺の守が生まれ持つ力は強く、先見も先読も外さない。良山から来る祝の力を持つ者なら、愛し子じゃなくても同じ。手を出せば隠が敵に回る。
「ヒッ。」
バタンと倒れ、口から泡を吹く。そんなマホの姿を見て、同じようにバタバタ倒れる隠の守たち。
「皆どうした。」
ひとつ守、ビックリ。
「生きてますか?」
人の守が、倒れている隠の守の肩を叩く。
奥で話し合っていたらドタドタ聞こえ、何をしているのかなぁと思いながら話を続けた。暫くすると突き刺さるような、物凄い叫び声が聞こえたのだ。
慌てて駆けつけ、思い出す。
山守神は統べる地を持つ大神だが、霧雲山の統べる地において御力が弱まっていると気付き為さる。
だから畏れ多くも御考え遊ばしたのだ。強い力を生まれ持つ、大蛇神の愛し子マルを祝辺の守にしようと。
ソレを死ぬ気で止めたのが、己と同じ思いをさせる力を持つマホ。
「そうか、そうだったのか。」
マホは思い出したのだ。大蛇神と黒狐神の御力により闇に落とされた、あの日の事を。
「ひとつ守。」
人の守も気付いた。けれど、どうする事も出来ない。
「隠の守は死にません。人として死に、隠となったのですから。」
「そう、ですね。」
己も死ねば隠の守となり、霧雲山を守る事になる。
他の隠と違い、祝辺の守は隠でも物に触れられる。生き物にも隠にも妖怪にも触れられる。それが祝辺の守。
「そのうち起きます。騒がしくなる前に、話を纏めましょう。忙しくなりますヨ。」
「はい。」