11-46 良山に手を出してはならぬ
良山に御坐す二柱。
大実神は豊かな実りを齎す神で、人の世と隠の世を繋ぐ道を取り仕切って御出でだ。
大蛇神は水神で、良村の人に祀られた事で国つ神に御戻り遊ばした。
愛し子は確か、鴫山社の祝女の孫。
「人の守よ、どう思う。」
「はい。霧雲山に来るという娘、良村に預けられたか救われた娘でしょう。大蛇神の愛し子ではアリマセン。」
「私もソウ思う。大蛇神なら愛し子を霧雲山では無く、和山に御隠し遊ばすだろう。」
良村は『早稲の他所の』人の生き残りが釜戸の祝に認められ、大実山に新しく作った村。
大実山は良山と名を改め、手を入れた事で守りながら戦える山になった。戦好きな大国に攻め込まれてもビクともシナイ、そんな山に。
近づけないのは人だけでは無い。隠や妖怪も許し無く山に入ればスッと清められ、跡形もなく消えてしまうオッソロシイ山なのだ。
入るドコロか近づく気も無いが、祝辺の守でも同じコト。命も魂も幾つ有っても足りない。
「北山から救い出され、引き取られた子。」
「宝玉社の継ぐ子も幾年か、良山で過ごしています。」
「心の声が聞こえる社の司の姪。水を操れるのは、祝の妹の娘だったか。」
「はい。二人とも玉置、宝玉社に戻ったと聞きました。」
玉置が落ち着くまで預けられていたミヨとタマは、茅野から託されたタエと共に良村でイロイロ学び、楽しくノビノビ過ごして戻った。
良山はマルの力で守り清められているので、祝辺の守でも覗き見る事は出来ない。
ミヨとタマが玉置に戻ったと知ったのは、二人を乗せた舟が森川から鮎川に出て直ぐ。
タエが良山に入り、良村で暮らしている事。マルが隠の世と人の世を行き来したり、大実社を通って他の社に伺う事。どんな闇も指先一つでスッと清められる事など、知らない事だらけ。
北山から救い出された子の中に、鴫山社の祝女の孫が居た事。良村に引き取られ、力を増した事などナド。山守や祝辺が知れば間違い無く、力尽くで奪いに来るだろう。
とはいえマルは大蛇神の愛し子。神の愛し子に手を出せばドウなるか、嫌になるホド強く聞かされている。
だから気に病む事は無い、のだが・・・・・・。
「良山に強い祝の力を持つ者が生まれた。いや、他の地から逃げ込んだ。引き取られた、託されたか。」
「あの山には大実神と大蛇神、二柱の国つ神が御坐します。山を守っているのが大蛇神の愛し子なら『北山の生き残り』というコトも。」
「霧雲山に来る娘、大蛇神の愛し子では無いな。」
「はい。となると、他の生き残り。」
釜戸社なら誰がドコに引き取られたのか、どのように暮らしているのか。どんな力を生まれ持ち、誰と共に居たのかナド、コチラが知りたい全てを知っている。
けれど、ソレが外に漏れる事は無い。聞いても教えてくれないし、探る事も出来ない。
他では暮らせない、暮らし難い。そんな子は雲井社に託され、乱雲山から出ないだろう。
釜戸の祝は釜戸神の、雲井の祝は雲井神の愛し子。力尽くでドウコウ出来ないし、許し無く近づけば消される。
「良山に手を出してはならぬ。他から来るなら、黙って見守ろう。」
「はい。けれど山守が、呪い祝がジッとしているとは思えません。」
動かなければ、止めなければ!
「マホさま?」
「山守の次の祝、いつ決まる。いや決まる前に消す。」
「エッ! お、お待ちください。」
「ええい、止めるな。離れろ・・・・・・重い。」
体の上にドサドサ乗っかられ、とっても苦しそう。