11-44 顔に出てるのよ
ルイがテイに体を乗っ取られたまま、何も言い残さずに死んだ。殺された。
その魂が山守に戻る事は無い。
「なぜテイは『霧雲山に、強い祝を持つ娘が来る』と思ったのでしょう。」
人の守に問われ、ひとつ守が考え込む。
「霧雲山から出た事が無い私でも、祝の力を持つ人は外に出ない。出される事が無いと知っています。」
祝辺の守は強い祝の力を持つ、霧雲山で生まれ育った子だと決められている。今の人の守は白泉の出、前の人の守は深山の出だ。
五つから八つの間に引き取られ、祝社の継ぐ子となる。
「隠の世なら、他から出入りする事も有るでしょう。けれど人の世、それも霧雲山に入ろうと考える祝が居るとは思えません。」
山守社より恐れられているのが祝社。
一度でも祝社の継ぐ子になればトンデモナイ何かが怒らない限り、霧雲山という名の獄に繋がれてしまうから。
死んでも出られず逃げられず、鎮森から祝社に通う事になるのだ。何が何でも守ろうとする。
「先見の力を持つ守に聞いてみましょう。」
「そうですね。」
ボンヤリとしていたので、夢か何かだと思っていました。・・・・・・そう言われれば、そうだったカモしれません。
私が見てしまったアレは、見えてしまったアレはソレなのでしょうね。私、ドウすれば良いのでしょう。
言いたくアリマセン。
あの影は川亀、野狐、犬。川亀は隠、野狐と犬は妖怪。ナゼか揃って気が荒いし、怖いし恐ろしいもの。
私のカンですが何れも、社から離れた社憑きだと思います。
「どうだ。見た者は隠さず、名乗り出よ。」
見たような気はしますが、そんな気がするダケなので。
「フゥ。ではスミ、頼む。」
「はい。」
スミって生き物の考えを読める、山背生まれのスミ? ワタシ、ナニモミテマセン。
「タカ。谷河で生まれ谷上で育った、先見の力を持つタカ。何を見たか、隠さず伝えなさい。」
ヒョッ。タカは多いケド先見の力を持つ、谷河生まれの谷上育ちのタカは私だけ。
「はい。ハッキリ見たのでは無く、ボンヤリしていたので確かではアリマセン。けれど申し上げます。」
川亀の隠は美味しそうで、野狐と犬は妖怪。狐の尾は九つ、犬は狩り犬。守っていた人は子、だと思います。
首飾りでしょうか。赤い何かが見えたような、見えなかったような。
そうそう。亀、狐、犬の他にも何か居ました。人の隠だと思います。
祝の力は感じなかったので、親でしょうか。ん、だとすると? あの子には祝の力が無い、という事に。イヤでも確かに清らな力が・・・・・・。
「タカ!」
「ヒャイ。思い出します、思い出せるように努めます。」
もう、そんな目で見ないで。私とっても気が弱いんだから。えっと、あの感じは。
「ハッ、そうよ。あの赤い何か。アレから清らな力がブワッと出て、あの子を包んでいた。ような気がします。」
「キヨ、読めるか。」
キヨって先読の力を持つ、山郷生まれの魚好き?
祝社の裏から流れる川で釣った魚を焼いて、骨までバリバリ食べるのが好きな、あのキヨよね。
「やってみます。」
狩り人の村で生まれ育ったのに、肉より魚が好きなんてね。山郷って、山の中に在るんでしょう?
行った事ナイけど。
「ウッウン。」
エッ、何ナニなに。声に出してた?
「声には出てないケド、顔に出てるのよ。」
咳払いしたキヨがタカをキッと睨み、言い切った。