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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
山守編
992/1588

11-43 私は私なのに


もう元に戻れない、と思う。


私は私なのに、私の体を動かせない。私は私のすみに追い遣られたまま、はじまりの呪い祝に体を乗っ取られたまま死ぬだろう。


ひとつ守に。いいえ、誰にも何も伝えられないまま。






「何をしている。この山に、霧雲山に強い祝の力を持つ娘が来るのだぞ。動け! 今すぐに動くのだ。」


山守の祝、ルイの体を完全に乗っ取ったテイが叫ぶ。


「祝から離れる気は無いのか。」


ひとつ守がテイに問う。


「何を言う。私は祝、山守社やまもりのやしろの祝ぞ。」


呪い祝でも祝は祝。間違いでは無い。


「良く聞け。強い祝の力を持つなら親に死なれても、ゆかりの者が死に絶えたとしても、その娘は社に引き取られる。生まれ育った地を離れる事など無い。」


「ハッ。おにの守には先見、先読の力を持つ者も居ろう。祝辺はふりべに戻り、確かめよ。」


どちらも居るが、今は。


「テイよ、なぜ偽る。神の御姿を見る事も、御声を聞く事も出来るだろうに。」


・・・・・・。


「私の姿が見えるのだ、声が聞こえるのだ。その目も耳も壊れてイナイ。」


「黙れ、黙れ黙れ。」






テイに体を乗っ取られ、隅に追い遣られた祝は残らず死んだ。


その魂は山守では無く鎮森しづめもりへ向かい、生贄いけにえや人柱にさせられた人の魂を救い、清めようと努める。



祝辺の守なら死んでも力を保ち続けるが、他の祝は違う。死ねば力を失い、触れられなくなるのだ。


その事に気づき、闇堕ちすれば妖怪の墓場へ。苦しみ悶え、おにときを目指せば奥津城おくつきへ。






「テイ、もうめよ。その体から出て、死を受け入れるのだ。」


「死? 私は死なぬ。」


テイの声が低くなり、闇がブワッと溢れ出した。


「・・・・・・そうか。」


ひとつ守が呟いて直ぐ、山守のひとやがピカッと光る。テイに乗っ取られた祝ごと、清らな力で満たされてゆく。


「この力はぁぁっ。」






大祓おおはらえ』では無く『隠の儀』だと気付いたテイは慌てふためき、ルイの体から勢いよく飛び出した。


けれど見えない壁にち当たり、ジュッと音を立てる。






「コレデオワリダトオモウナ。」



物凄い顔をして叫んだテイが、光の獄から姿を消す。


清められたのでは無い。ルイの魂を根の国へ放り込む事で、人の世と隠の世のさかいへ滑り込んだのだ。


幾ら隠の守でも追えない。深い海に投げ込まれた、小さな石を拾いに行くようなモノ。



「取り逃がしたか。」


一度ひとたびは捕らえたのに逃げられ、また捕らえようとして少しのトコロで逃げられてしまった。


「ひとつ守、テイは?」


ふたつ守がキョロキョロ。


「イロイロ備えたのになぁ。」


みつ守、ガッカリ。


「過ぎた事を考えるのは(そう。」


「ハイ。」


「葬りましょう。」


ひとつ守に抱きついた二隠、顔を上げてニコリ。






山守の獄に繋がれていた祝が死んだ。


使わしめから知らせを受け、山守神やまもりのかみは思い悩み為さる。



あらたに選ばれる祝も、いつかテイに乗っ取られてしまう。そうなる前に何が出来るのだろう。打てる手は全て打ったが、見落としは無いかと。



どんなに隠しても隠せないと知っている社の司と禰宜ねぎは皆を集め、『次の祝を選ぶ』と伝えた。


山守の祝は早く死ぬ。けれど選ばれてしまえば生きている限り、断る事は出来ない。


祝女も祝人も継ぐ子も皆、死ぬまで山守神に御仕えする決まりだから。


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