11-42 肝に銘ずる
謀略を巡らせ兄一家を抹殺し、王座を奪った歖王。
精神崩壊と体調不良により欠勤するのは当然と言えば当然だが、連続欠勤により旱魃地への降雨業務が停滞。
是王の処刑後、腹心は古参を引き連れ離職。新規採用しようにも、成獣の大半は天獄と地獄で実施された雷獣実験により死亡。
そもそも雷獣の個体数を激減させた要因、諸悪の根源は先帝が強行した『全世界同化政策』と『雷獣生体実験』にある。
最後まで反対した是王を失脚させるため歖、いや獅王の側妃に全面協力したのだ。
「困った。」
白龒が頭を抱える。
「長江と黄河の水量が激減。」
溜息交じりに青龒。
「五龒で協力し、雨を降らせるしかナイか。」
紅龒が呟く。
「ヤルしか無かろう。」
黒龒もポツリ。
「時間を戻せるなら戻したい。」
応龒が力なく笑う。
是王が少数精鋭を貫けたのは行動力と獣望が有り、実績や能力に応じた報酬を用意したから。
定年後には老齢年金、殉職獣の家族には特別年金を支給。現役の待遇改善にも積極的に取り組み、幼獣の出生率増加にも貢献。
働きに応じた報酬が支給されるのだ。アチコチから優秀な雷獣が集まり、死と隣り合わせの危険な仕事にも拘らず人気職となった。
それが今や雷獣不足。いや資金不足により必要獣員が集まらず、業務に支障を来している。
「紅白大蛇さま・・・・・・。」
青龒、紅龒、黒龒が同時に手を合わせ、祈り始めた。
「御名を『大蛇神』と改め為さったと聞く。」
「白龒。流には断られてたが、地獄で奇跡を起こされた悪取神に御願い申し上げれば。」
「応龒よ、無茶を言うでナイ。流は使わしめだが、悪取神は国つ神。神で在らせられるぞ。」
全ての争いを厭われ、極東に御籠り遊ばした水神は今、何を御考えなのだろう。
広大な大地に多くの湖を出現させ、数多の生物を救った水神界の重鎮。彼の地から遠く離れても変わらず、潤いと恵みを与え続ける慈悲深い神は御戻り遊ばさない。
理想郷を見つけ最愛と出会い、やまとに骨を埋める覚悟を御決め遊ばされた。
「大陸西部、アンリエヌだったか。」
「あぁ。はじまりの一族が建国し、人を飼っているとか何とか。」
「いや、ソレは昔話。大王から王座を奪った化け王が統治し、ローマより栄えていると聞く。」
「我も聞いた。同族から全特殊能力を収集した化け王が、王族の生き残りを王城地下に幽閉したと。」
「その化け王。やまと中つ国、霧雲山を気に掛けているそうな。」
五龒は知らない。
『はじまりの一族』である化け王が不老不死で、その気になれば惑星をも滅ぼす力を有している事。
『はじまりの隠神』より先に、『はじまり一族』が現れた事も。
「天獄と地獄の中国妖怪は、死んでも手を出さん。」
「が、他のは狙うだろう。」
「アンリエヌと霧雲山に手を出さぬよう、見張らねば。」
「あぁ。仮に人が手を出しても天獄、地獄とも連帯責任を取らされる。」
「で、滅亡か。」
全く笑えないが五龒はソレを肝に銘じ、雨を降らせに旱魃地へ飛び去った。