11-41 帰っとくれ
わぁっ、真っ白だ。ボクと同じだね。
「ようこそ明里へ。悪取神の使わしめ、明です。」
「ハジメマシテ。天帝のツカイ、白龒デス。」
『悪取の力』が多くの人、合いの子を救うと知った時は嬉しくてね。涙が止まらなかったよ。
合いの子を救えるのだから妖怪も、そう思いはしたが気掛かりだったんだ。『雷獣の親と子を救えるのだろうか』と。
・・・・・・雷獣も人も変わらないね。
王になるために騙し、子から親を奪う。親に死なれた子は生きられず、闇堕ちしたり死んでしまったり、殺されたりする。
子から親を、親から子を奪うなんて私には考えられない。
去島や自凝で見つかった雷獣にも親が、子が、番が居たハズだ。
生きて戻りたかったろう、もっと生きたかったろう。死にたくない、そう思ったろうに。
手厚く葬ったが、水と花を供えに行こう。遠く離れた地で眠るのは寂しかろうが、魂だけでも戻れたと思いたい。
「アトリノカミ、サマ。トテモ感謝、アリガタクオモッテマス。」
「こちらこそ有難う。雷獣王、正妃と彦の魂を救えた事。とても嬉しく思います。」
八百万の神の国、やまと。数多の神が御坐すが、人の世に御坐す隠神は幾柱か。
悪取神は隠の世が開いても人の世に留まり為さり、他では生き難い人や妖怪を明里に迎え入れ、守って御出でだ。
死んで妖怪になった明里は闇堕ちし、松田が耶万に滅ぼされても犲の里を、皆の墓を守り続けた。
『悪取の力』に溺れる事なく、たった一妖で。
大貝神の代替わりに力を尽くし、天つ神の御力により隠となった明里は里に戻り、紅白大蛇より新たな名を賜る。
『悪取』悪しきモノを奪う力、悪しいモノを消して無くす力。これからも多くの人を、合いの子を、隠や妖怪を救うだろう。
御会いした事は無いが御隠れ遊ばした御犬様、隠犬さまが御坐したら、きっと喜び為さるだろう。
「天獄モ地獄モ妖怪ミナ、ヤマトニワザワイ、モタラシマセン。」
「はい、信じます。天帝に宜しく御伝えください。」
「ハイ。」
・・・・・・ニャンで?
「流、忘れたとは言わせない。大陸でアレコレ遣らかしたろう。」
まぁね。
「紅白大蛇に御会いしたい。」
へぇ、そうなんだ。
「紅白大蛇の聖域、隠の世とやらに」
「断る。」
やまと隠の世は大陸天獄や地獄と違い、気軽にホイホイ行き来できるような場所じゃニャイんだよ!
「ってか白龒。大蛇神、紅白大蛇に何の用だい。」
「叶うなら、御戻りいただきたい。」
「諦めな。」
大蛇神は安住の地を求めてアフリカ、大陸の西から遙遙やまと、極東まで来なさったんだ。
「やっと見つけた理想郷、それがココ。」
「解っている。けれど」
「耳の穴を掻っ穿いて良く聞きな。封建制度や中華思想に華夷思想、一方的に押し付けて殺戮にしか興味が無い。そう思われてんだよ。譬え長江や黄河が干上がっても、何にも為さらない。」
「・・・・・・しかし。」
「あの御方はね、やまとに骨を埋める御積りさ。人は呆れるホド醜い生き物で本当、救いようがニャいよ。けど、見つけたのさ。」
「番か、最愛を見つけられたのか。」
番じゃなく愛し子。まぁ、似たようなモン? けど言わニャい、教えニャい。
「帰っとくれ。」