5-26 狂気の末
「ヒサ、来なさい。」
「は?」
「来なさい。」
「なんで。」
「来なさい。」
「ちょっと、何すんのよ。放せ、ババア。」
サエに引き摺られ、仕置場へ放り込まれた。そして、はじまる。
「聞きなさい、ヒサ。」
「誰に向かって」
「山守社へ、送ります。」
「は?」
「十になっても、何も出来ない。」
「は?」
「何も、学ぼうとしない。」
「は?」
「害することしか、考えない。」
「は?」
「ただ、求めるだけ。」
「アンタ」
「酷い言の葉でしか、話せない。」
「聞けよ。」
・・・・・・。
「何とか言えよ。」
・・・・・・。
「オイ、ババア。」
ここまで言っても、まだ分からないの? これまで幾度も、繰り返し、繰り返し、言い聞かせていたのに。
「あなたはね、ヒサ。受け入れ先が、ないの。」
「なっ?」
「山守社へ、送ります。」
「ここから出せ。」
「オイ、聞け。」
「出せ、出せよ、オイ。」
「だせぇぇぇぇぇぇぇ。」
「出してやる。暴れろ!」
黒いもやが、囁く。
頭に血が上っていたヒサは、適切な判断を下すことが出来なかった。
ドスンと大きな音がした。振り返ると、ヒサがいた。仕置場から、飛び出してきた。そして駆け出す。大きな石を持って。
ヒサは、耐えられなかった。何も出来ないと、言われたこと。何も学ぼうとしないと、言われたこと。受け入れ先がないと、言われたこと。そして何より、コウに選んでもらえなかったこと。
「分かってる。でも、認めない。私は、選ばれた子。誰にも、妨げさせない。私が祝になる。」
ヒサは投げた。当たらなかったから、蹴り倒そうとした。かわされ、掴みかかった。しかし、思い描いたようには、ならない。
ツルに首根っこを掴まれ、叩きつけられた。気がつくと、祝人らに押さえつけられ、叫ぶ。
「放せ、放しやがれぇぇぇ。」
トスッと音がした。




