11-38 何をブツブツ・・・・・・と
根の国ならイザ知らず、大陸の地獄へ祝を派遣するなど有り得ない。派遣するなら妖怪の祝。
中の東国。大貝山の統べる地にある腰麻のユキは妖怪の祝だが、持っているのは闇の力と癒しの力。清めの力は無い。
隠の世にある郡山、猫神に御使えするミツは元、祝。光は失ったが清めの力は残っている。が、妖怪ではなく隠。
「気乗りしニャイが、仕方ない。」
白澤を追い出し、コホン。見送った流が溜息交じりに呟き、重い腰を上げた。
目的地は霧雲山、祝辺。
「一隠くらい戻らなくても、何とかナルだろう。」
イッパイ居るからネ。って、エッ。
祝辺の守は人の守はモチロン、隠の守でも霧雲山の統べる地から出る事は無い。
人の世でも隠の世でも、中つ国から出るとすれば根の国。伊弉冉社へ御伺いする時か、根の国からしか入れない神倉へ行く時くらい。
祝辺の隠の守は死んでも力を失わないので、清めの力を持つ祝がワンサと居る。
人の守、ひとつ守、ふたつ守、みつ守も出せないが、他なら何とか・・・・・・なるのだろうか。
「はニャ。」
流がパチクリし、コテンと首を傾げた。
「清めの力を持つモノを持って行けば良いのでは?」
祝を連れて行かなくても、強い清めの力を持つ人や妖怪、隠が作るか生み出した物ならイケル!
大貝神の使わしめ、土の糸でグルグル巻く。良村の子が作る、赤い石が入った守り袋を当てる。悪取神に悪取の力を紡いでいただく、という手も。
「うん、御頼みしよう。そうしよう。」
神成山名物『鮭の燻製』を持って、お出掛け。目的地は明里、悪取社。
イライラ、イライラ、イィライラ。
「雷獣王、如何なさいました。」
兄を生贄に、兄嫁と甥を見殺しにして得た王位。歓喜に酔い痴れていたのは数日。
「何でも無い。」
王座で苛立つ歖は報復を恐れていた。
兄一家は現在、大陸地獄に幽閉されている。調査が進み、アレコレ明らかになれば困った事になるだろう。
獣望が無い事、王の器では無い事も己が一番よく知っている。
「裁きはドウなっている。」
天帝は天獄では無く、地獄で裁かれている。
それが何を意味するのか、上級以上の妖怪なら知っているハズ。是王が公開処刑されたのは天獄、中央広場。集められたのは中級以上。
「クソッ。」
ナゼあの場に白澤が居た。加えて鳳凰に麒麟、応龒、霊亀まで。
「・・・・・・マズイな。」
捏造した冤罪の数数、その大半に関与しているのだ。明らかになれば間違い無く、この首が飛ぶ。
ブツブツ、ブツブツブツ。
「何をブツブツ・・・・・・と。」
賢王として歴史に名を遺す、獅王の側妃が固まった。
「坊や?」
イイ年した雷獣に『坊や』はナイでしょう。
「その斑、どうしたの!」
タッと歖に近づき、右の前足でソッと触れた。
溺愛する我が子の体、そのアチコチに円形や楕円形の脱毛斑があるのだ。発赤、腫張まで認められる。
「大丈夫よ、この母が付いています。」
円形脱毛症の原因は不明だが、少なくとも伝染性の疾患では無い。自律神経や内分泌の障害、自己免疫などが考えられている。