11-34 裏切るも何も
「何だと!」
去島も自凝もダメ。他にも人が居ない島はあるが、ポツンと浮かぶかキッチリ守られていて使えない。
だから滅ぼされ、誰も居ない旧松田領を狙ったのに。
「まさか。」
情報が古いのか?
耶万とやらに滅ぼされた采、大野、光江だったか。その生き残りを拷問して聞きだしたのだ。アレらが庇う理由など無い。
「建国された?」
特級妖怪だったとはいえ、あの屑に出来た事。化け猫と同様か、アレより強い妖怪が旧松田領に定住したとすれば。
「滑め、裏切ったな。」
裏切るも何も瓢の民は朝から晩まで酷使され、心身を壊されポイ捨てされた妖怪ばかり。
『主君への忠義』だの『誠忠』だの『忠孝の道』だの、海を渡る前に纏めて投棄している。
郷里の土を踏む事など無い。骨の一つも戻れないが死ぬ瞬間まで、『異なる国の民』として生きる。
それが国を捨て、異国で生きる妖怪に残された道。
「ブエックション、ヘクション。・・・・・・悪口を言われた気がする。」
ズルル。
「滑さま、お休みください。」
「ありがとう、鯰。」
猫又の流。私でも知っている猫の大妖怪が、国つ神に御使えしていたとは思わなんだ。にしてもククク。
兵の大半を失い、建造物はボロボロ。賠償金をゴッソリ取られ、再起不能。にも拘らず増税を繰り返し、犯罪率と失業率が増加。
民衆の不満が爆発し、アチコチで武装した大衆が実力行使。
この国は良い。
行動範囲が規制され、委託される業務はアレだが苛政無し。
猫神の目が光っている地で上手く生きられるか心配だったが、我ら瓢の民に与えらえた土地は豊かだ。水も空気も美味しく、日当たり良好。作物も家畜も良く育つ。
納めるモノを納めて義務を果たせばノビノビ楽しく生きられる。
あぁ、なんて幸せなんだ。妖怪に生まれて良かった。
「滑さま?」
何に祈りを捧げてらっしゃるのでしょうか。
「鯰。これからも兎と猫に感謝して、誠実に生きてゆこう。」
「はい。」
兎は稻羽さま。で猫は・・・・・・猫神?
瓢の町があるのは人の世の外れだが郡山。あちら側を治める隠神は猫神で在らせられる。が、猫は猫でも猫違い。
そんな気がする。
「滑さま、タイヘンです。」
「そんなに慌てて何事だ、竜。」
「ヤツら雷獣王を幽閉し、王妃を中の東国に向かわせました。下りたのは人の世にある隠の国、明里。王妃の後を追った王子が加津に落ちて捕らえられ、明里で処刑されたそうです。」
「ナニッ!」
滑、クワッ。直ぐにストンと腰掛け、深呼吸。
「で雷獣王、是王は。」
「天獄にて先ほど。天命だそうです。」
「天帝の御意思だと?」
「そ、の、ようです。」
ガックリする竜を慰めるように、鯰が黙って背を摩る。
「荒れるでしょうね。」
鯰が呟いた。
処刑された雷獣王は嫡男、それも正妃腹。側妃腹である次男は野心満満で王の器では無い。
アレが即位すれば傀儡となり、地上に禍を齎すだろう。
にしてもナゼ天帝は、いや違う。
御し易い次男を王に据えるため、王妃と王子を処分させてから王を処刑。やまとに仕掛けるオツモリなのだ。