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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
山守編
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11-32 飼えない獣


丸一日経った。


死んだ魚のような目をしているのに気付いたイイが、そっとおりに近づいた。息をしているので生きている。けれど、心は死んでいる。



傷を負った獣は一思いに殺さないと、シャキンと出した爪で切り裂かれる。前足で押さえつけられて、ガブッと噛みつかれる。だから近づかない。



ミカさんが『危ない』って。『触れるとピリッとするから、近づいてはイケナイよ』って。だから近づかない。言い付け、ちゃんと守るモン。


でも・・・・・・ね、とっても悲しそう。






「こんにちは。悪取神あとりのかみの使わしめ、あけみです。」


キュルン。


明里あかりすみ切岸きりぎしと加津の真ん中あたりに吊るされていたタプタプ袋に、大きな獣が掛かりました。シュワッとけたので、どんな獣か判りません。」


切岸は松田に滅ぼされた国の一つ。荒れ果てていたが手入れし、暮らし易いように整えた。明里の民が幸せに暮らしている。


「近くに雷が落ちたような木が見つかったので、雷獣が下りたのだろう、と?」


首をかしげ、パチクリ。


「檻の奥で震えている獣、雷獣ですよね。」


小さいケド。


「はい、雷獣の子です。」


明に問われ、イイが答えた。






吊るされて直ぐのタプタプ袋は小さい。生き物が入り、融かす事で大きくなる。


悪取が神に御為り遊ばした事で力を増したのか、闇を纏った生き物ならシュッと融けるようになった。



大きくなっても西瓜すいかホドなのだが、バランスボール級のタプタプ袋が地に付いていた。その重みに耐えきれず、糸がビヨンと伸びたらしい。


完全に融けているが、触れる事で判る事がある。






「私、明里の隅に何かが落ちた事に気付き、悪取神に御伝えしました。直ぐに消えたので『タプタプ袋に入ったのでしょう』とも。」


明は犲のおに


初めは何の力も無かったが日に日に力を増し、旧松田領内であればドコにどんな生き物が居るか判るようになった。


「袋の一つが地に付いた事に御気付き遊ばした悪取神が、私と二隠でタプタプの元へ。着いて直ぐ『雷獣』とおっしゃいました。少し御考え遊ばし『近くの森、千砂ちさより加津の森がアヤシイ』とも。」


「ニャるほど。」


地に付くほど大きく、重くなったタプタプ袋が見つかったのは切岸と加津の間。もし切岸と千砂の間で見つかったのなら、加津ではナク千砂へ向かわせ為さる。


「もし雷獣が見つかったのなら引き取り、社へ持ち帰るようおおせつかりました。」


キリッ。






雷獣さん、融かされちゃうのかな。イイみたいに引き取られて、幸せに暮らせないのかな。


危なくナイなら、ううん違う。だってミカさんが『危ない』って言ったんだもん、『近づいちゃイケナイ』んだもん。



「イイ。」


ミカがイイの手を包むように持ち上げ、微笑んだ。クルっとされて驚く。ミカのてのひらに乗せられたおのの手が、ギュッと握り固められていたから。


「ミカさん、イイね。イイね。」


涙で頬を濡らすイイの髪を優しく撫で、ソッと抱き寄せた。


犬なら、中つ国の生き物なら引き取れる。けれど雷獣は引き取れないと解っている。だから、どんなに考えても言の葉が出ない。


「ミミもね、飼えない獣を見つけたんだ。」


しばらく泣かせてから、ミカが語りだす。


「ミミさんも雷獣、飼いたかったの?」


「首を噛まれて動けなくなったやまいぬの子を、森の中で見つけてね。イイと同じように、手をギュッとしていたよ。」


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