11-31 絶望した幼獣
『猫に小判』
猫には小判の価値が分からない事から、価値の分からない人に貴重なモノを与えても無駄である事の例え。
『犬に小判』『馬に銭』ともいうが、『猫に小判』が一般的。
確かにネコに小判を見せても興味を示さない、カモしれない。けれど流は野良から猫又、それも大妖怪になった御猫サマ。
エジプトで育ったので金の価値、真珠の価値も知ってるヨ。
「ニャァ・・・・・・。」
ピラミッドにスフィンクス、大きかったなぁ。
金塊を確認中、猫生を送っていた頃の事を思い出した流。なぜピラミッドが出てくるのかって? 金字塔ですよ。
側面の形が『金』の字に似ている事から、ピラミッドの異称となりました。
黄金の山を見続けていたので、お目目をショボショボさせてマス。前足を瞼に当て、軽く押さえて眼球マッサージ。効果のホドは?
「流さま! 大貝山の統べる地、加津で雷獣が見つかりました。」
渦風の社の司、イトが神倉に飛び込んできた。
「ニャンだってぇ。」
クワッ。
「見つけたのはイイ。妖怪の国守、ミカに引き取られた合いの子です。捕らえられた雷獣は幼く、闇の力で作られた檻に入れられているトカ。」
なぜ千砂ではなく加津に。明里を狙うなら、いや違う。幼獣を落とし合いの子に飼わせ、成獣になるまで待つ。
妖怪の国守に戦いを挑んでも、勝てるとは限らない。だから幼獣を落とし、拾って育てさせるのだ。生きたまま腹を裂いて、門にするために。
んなコトさせるか!
「加津へ行く。」
「ハッ。」
渦風神に御許しをいただき、社を通って加津社へ。
「ちっさ。」
幼獣と聞いていたが、こんなに幼いとは思わなかった。
「森の中に転がっていたと。」
「はい、流さま。」
イイが胸を張る。
「闇を広げて加津の森を調べましたが、親は見つかりませんでした。」
「空からウッカリ落ちたのでは無く、明里に下りた親を追って落ちたんだろう。」
ミカから報告を受けた流。檻の中で怯える幼獣を見つめ、ポツリ。
明里から何も知らされてイナイ。というコトは、この幼獣の親は死んでいる。タプタプに融かされて。
悪取神の御力は『悪取の力』『獣の力』『滅びの力』の三つ。
『悪取の力』で出来た糸は、見える目を持っていないと見えない。その糸で縄を綯い、張り巡らせて御出でだ。
悪取社の横に生えている柞の大木から明里の地、全てに。
雲からウッカリ落ちたなら、逆さに吊られて運ばれる。
鳥や隠なら明里、人や妖怪なら松裏。判らないモノも松裏に運ばれるが、白い獄に放り込まれると聞く。
明里に禍を齎そうと下りたなら、間違い無くタプタプ袋行き。
人の味を覚えた合いの子が舟に放り込まれ、松田に多く流される。だから確かめず、そのままドボン為さるとか。
「ミャァ。」 ハハウエェェ。
『ボクはココだよ』って、『助けに来て』って叫んでも叫んでも来てくれない。
『待ってなさい』って言われたのに『嫌だ』って泣いたから? 母上を追っかけて、雲から落ちたから? ボクが悪いコだから来てくれないの?
ボク、死んじゃうんだね。もう会えないんだね。
「流さま。雷獣の子から、光が消えました。」
ミカに祝の力は無いが、闇の力で作った檻は吸う。放り込まれたモノから溢れるアレコレを。
「そう、か。」
親が死んだと知らず、見限られたと絶望したのか。