11-29 コレが雷獣ですか
イイは聞き分けの良い子である。
初めて見る獣に心が引かれているが、ミカが『危ない』と。『近づてはイケナイ』と言ったのだ。近づく事は無い。
「おや、雷獣だね。」
加津神の使わしめ、ロロがフラリと現れた。鳶の妖怪なので飛ぶ事が多いが、気が向くと人の姿に化けて山歩きを楽しむ。
「そうじゃナイかと思いました。コレが去島で見つかった、空の上で生きる獣ですか。」
「その通り。杵築大社で見た雷獣より小さいから、子だろう。食べるのかい?」
食べても、良いのだろうか。
「ミャァ、ミャァ。」 ヤダァァ、タスケテェ。
四肢を縛られたまま必死に助けを求める幼獣の姿に、ミカとイイの心が乱れに乱れた。
渦風神の使わしめ、流はリビア生まれの大妖怪。とっても物知りな猫又デス。
中国妖怪から根こそぎ奪った、コホン。支払われた賠償金の一割を納めた序に、集まっていた使わしめにイロイロ伝えました。
賠償金の残り? 全額、神成山の神倉に納めましたヨ。
流から教わった使わしめは多くアリマセンが、社に戻ると直ぐに広めます。腰麻神の使わしめ、田鶴もその一妖。
田鶴は妖怪の祝であるユキと、耶万神の使わしめマノに。ユキは会岐、大石、加津、千砂の妖怪の国守に。
マノは大貝神の使わしめ、土に伝えました。
ミカから話を聞いたロロ、ビックリ。
出雲で見た雷獣の姿を伝えたのですが、見たのは成獣の骸。当たり前ですが大きさや毛並みなど、細かいトコロが違います。
「ミカさん。」
山で生きる犬は犲だが、野で生きようと思えば生きられる。だからライジュウも『その気』になれば。なんてコトを考えながら、イイが声を掛けた。
「雷獣は晴れている間は良いけれど、雨が降ると大暴れする獣。飼うのは難しいだろう。」
「・・・・・・はい。」
「雷獣の子よ。言の葉が話せるなら、口に出すなり何なりして、伝えておくれ。」
「ミャァ、ミャァ。」 ウワァン、ハハウエェ。
「うん、ワカラン。」
ロロ、アッサリ諦める。
「雷獣は羽が無いのに、お空を飛べるの?」
イイがミカに尋ねた。
「雨を降らせる厚くて大きな雲に乗って、あっちコッチ飛び回るんだ。空の上から雷と共に、中つ国に落ちるんだよ。」
チョッピリ雷が怖いイイは持っていた器をソッと置いて、ギュッとミカに抱きついた。
話し合いの末、捕らえた雷獣を加津社に連れ帰る事になる。
触れるとビリビリするので、朸になりそうな枝を通した。前を担ぐのは人に化けたロロ、後ろを担ぐのはミカ。
ミカの背負子には拾った枝と、採ったキノコとカノシシの腸が入った籠が下げられている。イイは狩ったカノシシを、闇を伸ばして運んだ。
担ぐダケなら担げるが、担いで歩くのは難しい。小さい体には重すぎて、後ろに倒れてしまうから。
「ほえぇっ。」
加津の祝サハ、ポカァン。
「コレが雷獣ですか。」
加津の社の司ツサ、目を据えてジッと見る。
ロロは急ぎ神成山、渦風社へ飛んだ。空からウッカリ落ちたと思われる雷獣の扱いについて、尋ねるために。
加津では『雷獣を死なせてはイケナイ』と、イイが狩った鹿の腸を食べさせた。ミカの闇で作られた柵の中でペロリと平らげ、クワァっと欠伸してからスヤスヤ。
狩った鹿肉は解体し、加津の皆で分けて食べました。