11-28 お腹が空いてるのかな?
中の東国、大貝山の統べる地。加津の山でイイが目をグリングリン回し、後ろ足をピクピクさせている獣を見つけた。
拾った枯れ枝を静かに置き、見た事のない獣に触れようとして直ぐ、スッと手を引っ込める。
キョロキョロしてからコテンと首を傾げ、木の枝でツンツン。スッと立ち上がってニッコリ。近くでキノコを採っていたミカの元へ、タッと駆け出した。
「ミカさん。アッチにね、美味しそうな獣が落ちてた。大きさは、このくらい。」
目を輝かせながら両の手を伸ばし、犲くらいの大きさを示す。
「そうか。」
「うん、コッチよ。早く早くぅ。」
カノシシやイノシシ、兎や熊など、知っている獣なら美味しそうでも『美味しそうな獣』なんて言わない。
だからイイが知らない、見た事の無い獣が倒れているのだろう。なんてコトを考えながら、跳ねるように歩く娘に手を引かれ、森の奥へ。
「ん。」
雷に打たれたのだろう、太い木が真っ二つに割れている。けどオカシイ。抜けるような青い空、雨雲なんて見当たらないゾ。
雷に打たれた木はプスプス燃えるモンだが、この木は焦げてナイ。
いや今はソレより何だ、この生き物は。木が真っ二つに割れたんだ。空からドスンと、勢い良く落ちてきたのだろう。飛ばされた? ドコから。
「ね、美味しそうでしょう?」
「そう、だな。」
と言いながら、人差し指でツン。
「こりゃ危ない。」
ピリッとしたので触れないように気を付けながら、四肢を纏めて縄で縛った。
「危ないなら、食べられないね。」
ガッカリ。
「落ち込む事は無い。ほら、カノシシだ。」
クルッと振り返ったイイが闇を伸ばし、コチラを伺っていた鹿の首をシュパッと落とした。
素早く後ろ足を縛って、太い枝に吊るして血抜き。その間に腹を開き、腸を残らず抜く。
クン、クンクン。
「ミャッ。」 エッ。
「・・・・・・起きたか。」
「ミュゥゥ。」 コワイヨォ。
雷獣は晴れた日には煮え切らず、立ち向かってドウコウする気が全く無い。けれど雨風にあうと勢いが極めて激しくなり、雲に乗って空を飛ぶ。
どう選んでいるのか分からないが雷と共に落ち、中つ国に禍を齎す。
『中の東国にある去島と、真中の七国にある自凝で雷獣が見つかった』という話は、社を通して広く知らされた。
使わしめは葬る前の骸を、杵築大社でシッカリ見ている。けれど妖怪の国守は話を聞いたダケで、雷獣の姿は見てイナイ。
「ミャァァ。」 ウゴケナイッ。
悲痛な叫び声をあげる雷獣をツンと突き、ジッと見つめるミカ。
「フゥゥ。コレ、もしかするとライジュウか?」
雷と落ちてくる獣。生きてるからチョンと触れたダケで、指の先がピリッとするんだ。他に思いつかない。
「お腹が空いてるのかな?」
イイは加津で飼われている狩り犬に食べさせようと、笹の葉で編んだ器に狩った鹿の腸を入れていた。ソレを持って近づき、ポツリと呟く。
「どうだろうね。触れるとピリッとするから、近づいてはイケナイよ。」
「はい。」