11-27 笑ってほしいんだ
心行くまで大暴れした流。海外勤務を終え、恙無く帰国。まず阿波岐原で禊祓を行い、身を清めてから杵築大社へ。
刺激的な表現を極力さけ、アレやコレやを事後報告。スッキリした顔で神成山、渦風社に戻りました。
「おかえり、流。」
ニコッ。
「ただいま戻りました。」
ニコニコ。
あ、あの・・・・・・渦風神。私をモフり為さるのは、告げ知らせを御聞き遊ばしてから、に、してぇっ。
流の出張中、アチコチで開かれた神議りでイロイロな事が決まりました。その一つが湾岸警備の強化。
この度は人の世にある隠の国、明里に押し寄せたから大事件にナラナカッタだけ。もし妖怪の国守や、戦える祝の居ない地に押し寄せていれば?
間違い無く、侵略者に虐殺されていたでしょう。
国守を増やす事は出来ても、妖怪の国守を増やす事は出来ません。
悪取神が人や物に触れられるのは、天つ神に認められた隠だから。人に望まれる前から、神格化する前から特別な存在だったので、他の隠とは違います。
犲の隠である明も人や物に触れられますが、明は悪取神の使わしめ。悪取神と明里のためにしか戦いません。
明里で暮らす合いの子たちも、他の地を守るためには戦わないでしょう。悪取神が御認め為さいませんよ。
「急げ、急ぐのだ。海の向こうから恐ろしく強い兵が押し寄せ霧雲山、霧雲山の統べる地を血で染めるぞ。」
「マタデスカ。ハイハイ、静かにしましょうね。」
「継ぐ子よ、社の司を呼べ。」
「ハイハイ、コレ噛んで。」
山守の祝に猿轡を噛ませ、頭の後ろでキュッと結ぶ。器を持って獄を出て、閂を掛けるとホッと一息。
『中の西国で、空から舟が飛び出した』その知らせは、霧雲山にも届いている。
霧雲山の統べる地は山奥。海から遠く離れているが、祝辺の守が隈なく調べた。
闇が溢れたり、闇喰らいの品が見つかったり、叢闇の品が見つかる事も無かったのだ。思い悩む事は無い、ハズ。
「こうも続くとなぁ。」
下げた器を持ってトコトコ。
「少し前は『霧雲山に強い力を持つ娘が来る』だった。で今は『海の向こうから』って、ハァ。どうなってんの。」
ブツブツ。
「そう嘆くな。」
「シズエさま。」
山守神の使わしめ、シズエは九尾の白狐。モフモフ尻尾が魅惑的。
「祝辺は何と。」
山守の祝がオカシイ。のは、今に始まった事では無い。
けれど新たに判った事が有る。山守の祝はテイ、はじまりの呪い祝に体を乗っ取られていると。祝辺の隠の守である、ひとつ守が突き止めたのだ。
山守の御山にある山守と祝辺は崖で区切られ、山守の民が越える事は無い。
けれど祝辺の民は違う。
作物が思うように育たず困っている山守の民に、食べ物を届けるのは人の守と祝辺の民。
「『テイが眠るか、離れるのを待つ』と。」
「そう、ですか。」
ほんの少しだが祝の、ルイの目に光が戻る事がある。体の中で暴れるテイを抑えつけようと戦っているようだ。
薄暗い獄で踠く姿を見るのは、とても辛い。
強い力を持っている祝辺の守にも手が出せないなんて、テイの身に何があったのだろう。継ぐ子の一人でしかナイ私には全く分からない。
けれどルイに笑ってほしいんだ。祝になる前の、あの頃のように。