11-26 流、最強伝説
流はタダの猫又では無い。猫の大妖怪、それも札付きのワルである。
ゴリゴリの選民思想にドップリ浸かった選良なんぞ、根絶やしの刑じゃ!
「それでも誇り高き大陸妖怪か。」
ブルブル震えながら吠える副官。
「アタイはリビア猫。まぁ、大陸妖怪には違いニャイね。けど、それが何だい。」
リビアで生まれ、エジプトで死んだ猫。それなりに楽しく生きたさ、旅行者に蹴り殺されるマデは。
猫又になって思ったよ、アタイは何も知らなかったんだって。だからイロイロ屠りながらメソポタミア、ペルシア、インドと西へ西へ。
「人も妖怪も漢民族でなければ夷だ、蛮夷だ。」
「ナニ言ってんの。頭に蛆でも湧いてんじゃニャい? 見てやるからコッチきな。」
と言いながら、研ぎ澄ました爪でシュパンと頭部を開いた。
「見当たらニャイねぇ。」
天獄と地獄でビビリまくる妖怪たちは、流の強さに恐れ戦く。
穏便に済ませたいが、どうすれば良いのかサッパリわからない。が、どこの世界にもネジが一本足りないヤツは居るもので・・・・・・。
「我らに勝てるとでも」
シュパァン。
「蛮族ども、耳の穴を掻っ穿って良ぉく聞け。戦争を仕掛けるなら先ず使者を立て、口上を述べよ。」
何でもカンでも己が一番と思い込んでいる不逞の輩が、顔を真っ赤にしてプルプル震えた。
「黙れドラ猫ぉ。」
敵は一匹。大軍と渡り合えるワケが無い、とでも思ったのか。生命力の強い、黒いカサカサのようにワンサと出てきた。
流は前足の爪をシャキンと出し、バサバサと払う。まるで去島で見つけた、雷獣の敵を討つかのように。
戦闘開始から十日、天獄上層部は流に和睦を求めた。が、目をギラギラさせながら断固拒否。
交渉決裂から十日、投入できる兵力がゼロとなる。もう全面降伏するしかない。が、エベレスト級の自尊心が邪魔をする。
さらに十日経ち、近衛師団まで全滅。もう四の五の言わずに、サッサと白旗を掲げるしかナイ。
「流様! 我らの負けです。降伏します。」
中国妖怪のドン、白澤が平伏す。
「ニャら未来永劫、やまとに戦を仕掛けないと誓え。賠償に金塊を大船百隻分、纏めて出しな。」
通常なら講和条約に先立って、戦闘を中止するための休戦協定が締結される。が、異常事態につき戦闘中。
「何だい、文句あんのかい。」
シャキンと爪を出し、白澤と愉快な仲間たちを睨みつける。猫又の大妖怪に死角など無い。本気で根絶やしにする気だ。
「・・・・・・講和を結びます。」
流がニヤッと笑い、懐からハンムラビ法典の一部が記された巻物を取り出した。指の先がチョコッと触れたダケでも効力を生じる、オッソロシイ代物である。
ハンムラビ法典とは紀元前十八世紀ごろ、バビロン第一王朝の王、ハンムラビによって制定された法典。
『目には目を歯には歯を』で名高い、実物が現存する世界最古の法典なのだ!
因みに『講和に関する取り決めを破れば即、神の呪いと懲罰が与えられる』と明記されてマス。
「中国妖怪の重鎮、天獄と地獄の重鎮、一妖残らず手形を押すんだよ。」
流がシャキン、スッ。シャキン、スッと爪を出し入れし、怪しく微笑む。一同、真っ青。
斯くして平和的に締結された『倭漢講和条約』は後に『泰山条約』と呼ばれ、天獄地獄の中国妖怪に黒歴史としてシッカリ、いや大袈裟に語り継がれる事となるのだが、それは別の御話。