11-25 猫又の遠吠え
去島や自凝に繋がれた雷獣を引き裂いて、大陸の妖怪がドドッと攻めてきた。その知らせはアッと言う間に広まり、アチコチでイロイロはじまった。
海でもネ。
「かかれぇ。」
「わぁい。」
大陸の舟が引っ繰り返され、乗っていた妖怪がバシャバシャ海に落とされた。ワニ和邇パニック、スタート♪
アッチでもパクッ、コッチでもパクッ。パクパクパクン、美味しいナ。
ワニはワニでもワニ違い。
関西以西では鮫をフカ、山陰ではワニと呼びますが、パクパクするのは和邇さんズ。やまとに鰐はイマセンよ。
「×△※!」
「〇◇×!」
大陸の言葉なので、何を言っているのかサッパリわかりません。助けを求めたり罵っている、のかな。叫んでいるのは確かデス。
おやおや。気合と根性で泳ぎ続け、陸に上がろうとする妖怪が居ます。が尾鰭フリフリ、バシャァン。浦に乗り上げるようにしてパクン。
波に身を任せ、スゥっと海へ戻りました。
・・・・・・報告は、なぜ連絡が途絶えた。
先遣隊も、投げ込んだ雷獣も戻らない。開いたハズの道は閉ざされ、改新しても開かない。やまとで何が起きている。
派兵したのは皆、精鋭。最新鋭の船に乗せ、武器も防具も十分持たせたのに。
「まさか。」
滑が率いて亡命したと聞いた時には驚いたが、アレらは使い道の無い落伍者。最初から期待してイナイ。
が仮にアレらが裏切ったのなら、大量殺戮計画に気付いたならドウだ。
「報告します。天獄第一部隊、全滅。第三部隊による雷獣投下、失敗。」
「ナニィ! 夷狄に敗れたとでも言うのか。」
はい、惨敗です。全面降伏してクダサイ。
「道から外れた禽獣に等しい夷に、蛮夷に敗れるなど許されぬ!」
「しかし」
「黙れ! 異民族は全て中国の天子の徳に感化され、臣下となるべきモノ。国境など認めぬ。殺せ! 夷狄など皆、殺せ!」
中華思想。
漢民族が古くから持ち続けた、自民族中心の思想。華夷思想とも言う。
漢民族が黄河中流に文明を起こして以来、常に周辺諸民族に対して優越した立場を保持していた。結果、自らを中華と美称し、異民族を夷狄や蛮夷と呼んで卑しむ事となる。
漢民族の優位が確率している間は寛容で開放的な、博愛主義となって現れる。けれど一度、優位が否定されれば極めて偏狭な保守排外主義の傾向を示す。
初めは周囲の遊牧文化に対して、自己の農耕文化の優越を示していた。
ソレも迷惑な話だが、春秋戦国時代以降は礼教文化による、天子を頂点とする国家体制を最上のモノと考えるように。
つまり夷を外道、禽獣に等しいモノとして扱うようになったのだ。
「ホウ。未だそのような事を言うて居るのか。」
渦風神の使わしめ流、颯爽と登場。
「獣の分際でっ」
指揮官の首がシュパンと飛びました。
流はリビアで生まれ、エジプトで死んだ猫又の大妖怪。
見聞を広めようとメソポタミア、ペルシア、インドと西へ西へ移動。中国で大暴れし、札付きとなった。
やまと国内では殺生禁止だがココは外国、ヤンチャし放題。人でも妖怪でも神でも何でもサクサク処分。ニャッニャッニャッ。
家なら引っ越せるけど、国は引っ越せないからね。古巣を手入れしに来ました。
肩慣らし終了、法螺貝を吹き鳴らせ。ニャオォン!