11-24 空から降ってきたのは
中の西国には穴門の統べる地、磐現の統べる地、出雲の統べる地、伯耆の統べる地、因幡の統べる地、周坡の統べる地、安蓺の統べる地、吉備の統べる地がある。
「長、姐さん。舟が、舟が空からドンと飛び出ましたぁ。」
穴門社のヤンチャ系 和邇が群れの長、黒白の元へ叫びながらビュゥン。器用に鰭を動かし速度を落とすと、円錐形の頭を下げてキュルン。
穴門社の使い和邇は妖怪が三割、隠が七割。穴門神の使わしめである黒白を群れの頭、黒白の妻である戟を女頭と認め慕っている。
「それって、大陸の。」
黒白の隣で、戟が呟く。
「ソウだろうな。」
中の西国のうち穴門、磐現、出雲、伯耆、因幡、周坡は統べる地を隈なく調べ終えた。安蓺と吉備は統べる地が広いので、まだ調べ終えてナイ。
鎮の西国は戦、戦で闇だらけ。山の奥は清らなので、コツコツ清めようと前向きに考えている。
真中の七国も戦、戦でギットギト。山の奥まで闇が広がり、御岳神が荒ぶられた。
急ぎ兎の妖怪である使わしめ、垨が助っ兎を集めて大祓。神に清めていただく。その繰り返しにより皆、ゲッソリ。
「で、どちらへ向かった。」
白黒に問われた使い和邇、キリッ。
「響灘の上からドンと出て、そのまま镾灘へ。アレは大陸の舟です。」
前鰭でビシッと示した。
「戟、周坡へ。好さまへ伝えておくれ。私は社へ。」
愛妻に優しく微笑むと、スッと消えた。
「周坡に行ってくる。戻るまで、頼むよ。」
「ハイ、姐さん。」
大陸の舟が空から飛び出て、周坡へ向かった? 引き裂かれた雷獣から出るのでは無かったのか。いや、もし天獄とやらから出たのなら・・・・・・。
「黒白。これから大社へ参り、御伝えしてくる。美古富山で神議りをするから、要る物を調え、備えておいておくれ。」
「はい。」
穴門神が出雲へ向かわれて直ぐ、黒白はセッセと会議の準備を始めた。
美古富山は伯耆、出雲、磐現、安蓺、吉備に跨がる連なった山で、それぞれの山には違う名がある。
御山すべてを示す名、といえば御解りいただけるだろうか。
八柱で集い座して議られるのは、御山の頂が輝く夜。崖や岩の洞、大木の洞など、その度ごとに変わるので、社を通らなければ辿り着けない。
「ごめんください。穴門の使い和邇、戟で御座います。」
镾灘は周坡の統べる地にある。
穴門社も周坡社も山の上にあるが、使わしめは和邇。陸より海で過ごす時が長いので、海の中に詰所が造られた。
因みに穴門神の使わしめ、黒白は和邇の妖怪。使い和邇の三割が妖怪、七割が隠。
周坡神の使わしめ、好は和邇の隠。周坡の使い和邇の二割が妖怪、八割が隠である。
「お待たせしました、戟さま。どうぞ、こちらへ。」
好に案内され、詰所の奥へスイスイ。
トンデモナイの、キタァ!
「えっ、空から。」
女の子ではなく、妖怪が乗った舟が落ちてきました。フワッじゃナイよ、ドシンだよ。
「はい。ウチの若いのが見ました。」
戟の話を聞いた好がパチクリ。そりゃ驚くよねぇ。