11-23 大きな声では言えナイが
伊弉諾尊。
千引の岩でのアレコレが数多の神に語り継がれ、『大きな声では言えナイが、結婚したくない神』堂堂の第一位に輝く男神でも在らせられる。
根の国は人の世の罪、穢の集まるトコロであると同時に、全ての大本を示す国。治めの神は伊弉冉尊。
伊弉冉尊は伊弉諾尊と別れて御住まい遊ばし、根の国で御力を揮われる賢く、慎み深い神。
伊弉諾尊は思い出の地? 自凝で悠悠自適の生活を満喫中。
「なにィ! 自凝は清らだ。大祓など要らぬ。」
御声を荒げ為さる伊弉諾尊。
「大陸の妖怪が飛び出した去島から、どす黒い闇が」
汗を拭き拭き、大国主神。
「黙れ、黙れ黙れ。」
「自凝は大きな島ですが、その周りに小さな島が御座います。」
「だから何だ。」
「自凝から離れたトコロに、南国の宝島が御座います。切猪の統べる地に在るので、切猪神が全て御調べ遊ばしました。」
「ハッ。」
「清らでしたが西の海に漂う闇を見つけ為さり、島を丸ごと御清め遊ばしました。」
津久間の統べる地に在る去島で、引き裂かれた雷獣の骸が見つかった。その知らせはアッと言う間に広まり、数多の神が統べる地を御調べ遊ばす。
鎮の東国、中の東国、南国、四つ国では少しでも『怪しい』と思し召せば大祓の儀を執り行い、清め為さる。
南国の稜見、猪瀬、那羅、切猪、仕磨、与志乃。
どの地も神を信じ敬い、その教えに従おうとする心が強く、争いを好まない。他と小競り合いするが、戦になる前に社が出てくるので清らだ。
そんな地だから、海を漂う闇に気付いたとも言える。
「宝島の西で見つかった闇、自凝から流れ出たとは限らぬ。」
「はい。けれど宝島と自凝は近う御座います。」
ギリリ。
「もしかすると、淳島から溢れたのかも」
「そうだ、淳島だ。」
自凝の南東に浮かぶ淳島は、勾玉のような形をしている。
宝島を合わせたのより小さいが、去島より大きい島の周りには珍しい形をした岩があり、魚釣りにはモッテコイ。
島の北西の低地に、多くの人が暮らす。
宝島の西で見つかった闇は十中八九、自凝から流れ出たモノだろう。淳島から流れ出たなら、宝島の南で見つかるハズだから。
「自凝には数多の神が御坐します。」
・・・・・・。
「一度、島ごと御調べ遊ばしては。」
大国主神が伊弉諾尊にズズイと迫られ、ニコリ。
「そう、だな。考えておこう。」
イヤイヤ、直ぐに動いて!
自凝の北から飛び出した大陸の舟が、早貝に向かったんだよ。小さな島って、自凝の南に多いよね。北に在ったっけ?
「伊弉諾尊。急がねば大事に為ります。」
ヌヌッ。
酷い別れ方をしたとはいえ、伊弉冉尊との思い出の島。
『母神に会いたい』と泣いた素戔嗚尊、その娘と契った大国主神の願い。気に食わぬが叶えるか。
「分かった。調べよう。」
伊弉諾社から自凝に御坐す禍津日神に使いを出し為さり、大祓の儀を執り行われた。涙ながらに御力を揮われた神神は、生まれて初めて父神に微笑まれる。
心にポッカリ空いた穴に、あたたかい何かが流れ込んだ。
メデタシめでたし。に、なると良いけど・・・・・・。