11-21 導火線が短いダ・ケ
人の世。
霧雲山の統べる地には底なしの湖、魂迎湖、魂呼湖などの大きな湖。乱れ川や暴れ川などの大きな川。牙の滝や渦の滝などの大きな滝がアチコチにある。
霧雲山や天霧山、魂喰山など、高くて大きな山も多い。中でも霧雲山は水が豊かで山守、鎮野、大泉の谷には山桃湖。山守、大泉、平良の谷には山桜湖。
山桃湖から白滝、山桜湖から大滝。白滝湖と大滝湖からドドドと流れ、アチコチへ水を運んでいる。
霧雲山の統べる地から噴き出す水を合わせれば、鳰の海より多いカモ。なんて話がチラホラ聞こえるホド、水が多い地なのだ。
霧雲山の統べる地の、人の長は人の守。霧雲山の統べる神は山守神で在らせられるが、霧雲山を守るのは隠の守。手強いゾ。
「神成山の統べる地には渦風神。使わしめ流は、大陸で大暴れした猫の妖怪。越道山の統べる地には高志神。使わしめ杖は、翼を持つ幼子の姿をした妖怪。具志古の統べる地には具志古神。使わしめヒュウは草蛇の隠だが鮫のような歯を隠し持ち、妖怪をバリバリ食らって清める力を持つ。」
流も杖もヒュウも、見た目はカワイイのよ。導火線が短いダ・ケ。
「大貝山の統べる地には大貝神、使わしめ土は地蜘蛛の妖怪。とはいえ、代替わり為さったばかり。幼い神を御守りする事を他より先にするだろう。」
大貝山に行くには大磯川を上がるしかナイが、千砂社に吹出社、風見社が目を光らせている。
千砂には加津、会岐、大石、腰麻、耶万。吹出山には加津、風見には早稲との付き合いがあるので、社を通して直ぐ動く。
「大国主神。大陸の妖怪は『光江に近づけば闇の種を植えられる』と知っていたから、松田を狙ったのでしょう。けれど、ならナゼ松田の縄張りに隠の国、明里が建てられた事を知らぬのでしょう。」
「稻羽も、そう思うか。」
「はい。」
松田にアレコレ持ち込み、戦に備えようと考えた。
松田には泉があり、川も流れている。元は大国。山に入れば木の実やキノコが採れるし、狩りだって出来る。
食べ物を多く持ち込まなくても生きられる、長く留まるには良い地だ。
少し考えれば分かるだろう。そんな地を人が、ずっと放っておかぬと。
浦辺の沖に舟が出ていた。松田の沖には何も無いから誰も居らぬ? イヤイヤ、あの地には悪しい人が隠れ住んでいる事は知っていた。
『何となく』でも知っていたハズだ。なのにナゼ。
「真中の七国、保国に入ったのは。」
「早貝からで御座います。」
モフンッ。
「勢多川をズズッと上がれば、鳰の海に入るからなぁ。」
とはいえ、漕ぐのはタイヘン。
「笠国、弓良川から入らなんだのはナゼでしょう。」
真中の七国の真中、御嶽から海まで流れる弓良川は傾きが緩く、川底が深いため舟が多く通る。
御嶽から鳰の海は離れているが、そんなに遠くない。
「多紀神の御力を恐れたか。」
多紀神は争いを酷く嫌われるのに、争いの絶えない地に御坐す山神で在らせられる。
御嶽に許し無く入れば人でも隠でも妖怪でも、ストンと谷底へ落とし為さる事で名高い。
「・・・・・・大陸まで、轟いているのでしょうか。」
稻羽に問われ、パチクリ為さる。
「どう、なのだろう。」
ボソッと仰り、深く御考え遊ばす。
「そんニャ事、今はドウでも宜しい!」
渦風神の使わしめ流、ババンと参上。