11-20 水、でしょうか
世が入り乱れたり、トンデモナイ禍が齎されると、何でもナイようなアレコレが『幸せなんだ』と思い知らされる。
脅かされたり失って初めて気付くなんて、愚かだなぁ。なぜ備えなかった、なぜ疑わなかった。
隠の世と違い人の世には人、隠、妖怪も暮らす。同じ中つ国に在るのに、隠の世に闇が溢れる事は無い。
和山の頂に建てられた大いなる社、和山社に御坐すは『はじまりの隠神』。とても強い清めの力を御持ち遊ばす大蛇神は、やまと一の水神で在らせられる。
叶うなら人の世を乱すアレコレを御清めいただきたいが、『人の世の事は人の世で、隠の世の事は隠の世で』が決まり。
・・・・・・ちょこっとダケで良いから。なんてコト、口が裂けても言えない。
「大国主神。」
稻羽の目が冷たい。
「ハッ、いや違う。」
「何が。いえ、今はソレより。」
「ウム。」
天獄に生きる妖怪が雷獣を生贄に、遠く離れた地へ戦を仕掛けた。
大陸の妖怪は戦好きで、統べる地を広げる事に喜びを感じる生き物らしい。ソレが次に求めたのが『やまと』。
天つ国でも根の国でも常世の国でもナク、中つ国に狙いを定めたのはナゼか。考えるマデも無い。天つ神も禍つ神も御強く、どう前向きに考えても勝てないから。
中つ国には人の世と隠の世が在るが、隠神は隠の世に御坐す。『人の世の事は人の世で』と仰り、静かに成り行きを見守って御出でだ。
「誰も住めぬ去島、大きいが穴だらけの自凝。コッソリと獣を隠し、仕掛けるには良い。が、気になる。」
「はい。」
中の東国、大貝山の統べる地を狙うなら去島。真中の七国、保国を狙うなら自凝。けれどナゼ南国、宝島を外した。
あの島も去島と同じ、誰も暮らさぬ離れ島。稜見や切猪を攻め易い島なのに。
四つ国や南国、鎮の東国は戦嫌い。守りも固く、備えているから避けた。
中の東国も戦嫌いだが、大貝山の統べる地には戦好きが多い。だから端にある松田を狙った、としか考えられぬ。
鎮の西国と中の西国を避けたのはナゼだ。
真中の七国で試して、思うように運べば攻める気だった? の、だろうな。他に考えられぬわ。
「稻羽。大陸の妖怪はナゼ東ではなく、西に仕掛けたのだろう。陸から行ける東を落とせば、物や人を運ぶのに良いだろうに。」
「そうですね。水、でしょうか。」
「水?」
やまとは細長い島。
真中には縦に山が連なり、海は深く火の山が多く、大きい島や小さい島がアチコチにある。雨が良く降るので水にも恵まれ、多くの生き物が暮らす豊かな地。
欲しくなるのは当たり前、か。
山と海が近いのでドッと流れるが、森が水を吸って蓄えるから泉も多い。美味しく澄んだ水をゴクゴク飲める国など、そう無いと聞くが・・・・・・。
水が狙い、なのだろう。どう考えても他に思い浮かばぬ。
大陸に澄んだ水は無いのか、清らな泉は無いのか。川も湖も濁り、そのままでは飲めぬのか。病になるのか、腹を下すのか。どうなんだ。
「真中の七国には鳰の海、中の東国は霧雲山の統べる地が御座います。」
「北へ北へ攻め入り、『源の泉を』と。」
「はい。」
霧雲山の恐ろしさを知らぬとはな。
・・・・・・お、大事ではナイか! 大蛇神の愛し子が居るのだぞ。