11-19 『良かった』とは言えない
渦風神は山神で在らせられるが、神成山の統べる地は海に面している。
中の東国で山奥に在るのは霧雲山の統べる地、畏れ山の統べる地の二つ。他は海からアレコレ、いろいろ齎されるのだ。
「渦風神。私、去島を調べて参ります。」
「流。隠の世は和山社、人の世は杵築大社が動いた。悪取神は大貝社を通して隠の世に。となると?」
「攻めて来たのは大陸の妖怪、舟が現れたのは去島から。人の世を調べるのだから、先ずは大社へ。」
「その通り。」
・・・・・・嘘だと言って。
やっと隠の世が開いたのに、悪取神が人の世に留まり為さる事になったのに、和山社から御許しが得られたのにナゼ、次から次へと揉め事が起こるのだ。
大陸から妖怪が攻めてくる。瓢からイロイロ知らされるが、死ぬ気で戦う兵を食い止められるホド強くない。
となると、頼みの綱は明里。
「困った。」
大国主神が頭を抱え為さる。
明里が在るのは大貝山の統べる地。津久間の統べる地で御力を揮われた事もあるが、同じ中の東国。
真中の七国から押し寄せる妖怪や合いの子を退け、いや薙ぎ払うために向かわれたダケ。
中の東国を守るためになら御力を揮われるだろうが、鎮の西国や中の西国を守るために明里を離れる、とは思えない。
大陸のヨォジュツやキンジュツを使って、去島からドッと攻めてくるカモしれないのだから。
「罠だけ、ナンテのも難しかろうな。」
いつ去島からドッと湧いて出てもオカシクない。
加津や近海など、入海にある国はドコも戦に備え、アレコレしているハズだ。闇の力を授かったからとノンビリ構えたり、明里を離れようと考え為さらないだろう。
「急ぎ申し上げます。自凝の北から舟が飛び出し、南国の稜見と真中の保国に攻め込みました。大陸の妖怪と思われます。」
飛び込んできた使い兎が平伏した。
「続けよ。」
「ハッ。南国は守りを固めていた事もあり、直ぐに蹴散らしました。けれど真中の七国は戦、戦で乱れております。」
数多の神が御隠れ遊ばし、穴だらけ。隠の世は人の世に手出しシナイ。となると、当たり前のように闇が噴き出す。
「そうか。で、どうなった。」
「早貝で殺し合っていた兵が手を携え、妖怪と戦い始めました。力では負けますが毒と知らずに飲んだ水で、妖怪がバタバタ死んでおります。」
使用されたのは『耶万の夢』と『松毒もどき』。どちらも猛毒、強い妖怪でも口から泡を吹く。
非力な人が妖怪に勝てるワケが無いのだが、泉や川に投げ込んだ毒により形勢逆転。
「フゥゥ。」
『良かった』とは言えない。
「申し上げます。去島で見つかった『仕掛け』が、津久間社より届けられました。」
使い兎がススッと、緑から預かった包みを差し出す。
「ホウ。」
もう動かれたのかって、エッ!
先の事なんて分からない。けれど言い切れる。コレ、夢に出るね。魘されるね、きっと。
クワッと開かれた目、苦しそうに歪む口。腹から喉の辺りまで引き裂かれ、肉が焦げている。
「大陸の舟が大きすぎて傷が広がり、擦れて熱を持ったのでしょう。」
そう言うと稻羽が、雷獣の目をソッと閉じた。
「自凝を調べ、『仕掛け』を見つけて取り除くよう伝えよ。」
「ハッ。」
稻羽が首を垂れ、ピョンと発つ。