11-18 去島か
去島は火の山島の沖合にある小島。起伏は少なく植物が繁茂しているが、雷獣の腹を満たせるような動物は生息してイナイ。
樹木は多いので幾らでも裂けるが、それダケ。となると、サッサと諦めて空に戻るのでは?
もしウッカリ痛めたのが後ろ足なら、傷が癒えるまで留まるだろう。
泉が無いので雨が降るまで乾きに苦しみ、動けないので狩れずに飢える。ボゥっとしながら空を見上げ、力を振り絞って吠えるハズ。
『助けて』と。
「去島から出られなくなった雷獣の叫びを、大陸から調べに来ていた妖怪が聞きつけた。飛べるのも居ますからね。水と食べ物を与えて島に閉じ込め、飼う事にしたのでしょう。掛け声か何かを発し、アッチとコッチの雷獣を掻っ捌けば。フフフ。」
流、とっても悪い顔。
「雷獣の大きさは犬と同じくらい。このように大きな舟、それも妖怪を乗せたまま通せるだろうか。」
「悪取神の仰せの通り。けれど掻っ捌いた雷獣を繋げ、大きな輪を作れば。」
ナッ、何と恐ろしい事を。
「入り口を大きくすれば、大きなモノを送れます。出る口が小さても、木か何かに括りつけておけばポンと。」
去島は海に囲まれている。際に生えている木に仕掛ければ、ザブンと勢い良く海面を滑るだろう。
そのまま贈灘を越え、入海に入れば松田まで直ぐ。
「会牧神に御頼みして去島を。その前に、津久間神に御話しせねば。」
「悪取神。これら全て、大陸の品で御座います。雷獣の毛が見つかった事でハッキリしました。私、社に戻って御伝えしようと思います。」
キリリ。
「そうですね。一度、明里へ戻りましょう。」
「ハイ。」
悪取神は流を抱き上げ、静かに糸の上へ。そのままシュタタと高速移動。
丈夫だが不慣れだと綱渡り、じゃなくて糸渡りは難しい。ニャンコを抱っこしたかったワケではアリマセン。悪取神は愛狼家、ネコよりイヌが好き。
タッタと後を追う明はチョッピリ『羨ましいナ』と思いながら、黙って駆けマス。悪取社に戻ったらナデナデ、よろしくお願いします。キュルン。
「ただいま戻りました。」
悪取社を通って渦風社に戻った流、キリリ。
「おかえり、流。」
ナデなでナデなで、なぁでナデ。
「アッ、あの。」
お、溺れてしまう。ゴロゴロゴロゴロ、ハッ。
「渦風神、大事です。明里の国、松田に残されていた品。大陸のモノでした。それに、コレを御覧ください。」
「獣の毛だね。」
「はい。雷獣の毛で御座います。」
「雷獣。・・・・・・去島か。」
松田を目指すなら火の山島より、贈灘に浮かぶ去島だ。あの島には泉が無い。贈灘で海に落ち、流れ着いた人は居ろうが住み着かぬ。
「ハイ。去島の辺りからポンと、大陸の舟が現れたそうです。海社の使い隠が和邇から聞き、社を通して悪取神に御知らせ為さったとか。」
「ホウ。」
海神が御力を揮われたのではナク、大陸の妖怪が松田を目指したと。
狙いは悪取神か、明里に引き取られた合いの子か。
いや違う。海沿いにある浦辺でも加津でも無く松田に狙いを定めたのは、松田に闇を抱えた人や妖怪が隠れ住んでいると知っていたから。
松田の縄張りに隠の国、明里が建てられた事を知らぬのだ。
浦辺を外したのは舟が出ていたから。
加津の舟は浦辺ではナク、加津で漁をする。だから浦辺に人が住み着いたと、逃げずに暮らせる人が移り住んだと考えた。