11-17 それニャッ!
三つ数えて顔を上げた流、思わずクラァリ。中性的な雰囲気の、それはそれは美しい隠神に見つめられていたのだ。
猫又でもポォッとする。
「さぁ、こちらへ。」
「ふぁい。」
フラフラァ。・・・・・・ニャッ!
室内に並んでいたのはドレもコレも、見覚えのある品ばかり。わぁ懐かしい、じゃニャイ。この文様に形状、ドコからドウみても大陸のモノ。
疑っていたワケじゃニャイのよ。でも幾ら好戦的だからってワザワザ、妖術や禁術を使って攻め入るナンテ愚かなコト、する・・・・・・わね。
アレを使ったとすれば毛か皮か、鏡か何かが残されているハズ。ニャイ、なら舟だ。
家の中には入らなかったので、外に置いてある。モチロン雨や風から守るため、覆ってアリマス。
掛けてあった覆いをソッと取り、ペタペタ。ペタペタペタと舟底に肉球を押しつける流。目を皿にして捜すのはヤツの体毛。
浮気の動かぬ証拠を求めて? イエイエ。物凄い執念を感じますが、気迫のこもった顔つきですが違います。
「見つけた。」
クワッと見開き、ニャッニャッニャッ。やっぱりアンタだったのね。
「それは?」
明がクンクン、匂いを嗅ぐ。
「雷獣の毛です。」
キラン。
「ライジュウ。」
クゥンと首を傾げ、パチクリ。
「私が継ぐ子だった時、御犬様が御教えくださった。雷と共に中つ国に落ち、大木を裂いたり人を傷つける獣だと。そうそう、確か生きたまま引き裂く事で、遠く離れた所へ行けるとか。」
隠となり名を悪取と改めたが、明里は人として生まれてから死ぬまで、御犬社の祝だった。
里を守るために学ぶ事の中には、隠や妖怪のアレコレも含まれる。
「海の向こうでも・・・・・・でしょうか。」
「そうだよ。陸は海に隔てられるけれど、空は繋がっているからね。」
明に優しい眼差しを向け為さる悪取神。明は悪取神に尊敬の眼差しを向け、尾をブンブン振っている。
一方、渦風神の使わしめ、流は難しい顔でブツブツ。
「悪取神。この舟、どの辺りから現れたのでしょうか。」
「贈灘に浮かぶ去島の辺りから、ポンと現れるのを和邇が見たとか。」
海社の愉快な仲間たちが総力を挙げて、目撃魚さがしに取り組みました。
「去島、ですか。」
流が考え込む。
「どのような島なのですか?」
明が悪取神に問うた。
「火の山島と具志古の間に浮かぶ、小さくて平たい島だよ。泉が一つも無いから、人も獣も住み着かない。暮らせないからね。」
ニッコリ為さって明をナデナデ。
どの灘も風と波が荒くて潮の流れが速く、舟で行くのが難しい。
贈灘は狭いのに、驚くホド多くの舟が行き交う。だから少しでも気を抜くと舟と舟が強く打ち当たって、海に放り出されてドボン。
舟がグワンと引っ繰り返ったり、割れて壊れてブクブク沈む事も。
「悪取様。去島に落ちた雷獣が空に戻れず、悪しい妖怪に引き裂かれれば、向こうからコチラまで来られるのでしょうか。」
キュルン。
「それニャッ!」
右の前足で空中を叩く流。その姿は宛ら、早押しクイズのボタンを押すよう。
悪取神は笑みを湛えながらパチクリ為さり、明はキャインと悲鳴を上げて後退り。ビックリするよねぇ。