11-14 怪しい術
大陸から海に出て、やまと中の東国に在る明里の国、松田に入る。どう前向きに考えても難しい。妖怪であっても、人の国でも隠の国でも。
海から行けぬなら陸、抜け道か何かを通れば良い。イヤイヤ化け王だから出来る事。幾ら妖怪でも、そのような・・・・・・力は無いハズ。
「もし道が。」
落ち着け。そのようなモノ、在るワケが無い。と言えるのか、言い切れるのか。
小動物が首を傾げる姿。『カワイイ』とか『愛らしい』とか『癒しの天使』とか、いろんな表現が有るだろう。
頭を抱えたくなる問題が発生し、胃がキリキリしている時のモフモフ。思わず拝みたくなる・・・・・・のだが、当の本兎は真剣な眼差しでブツブツ。
何か思いついたらしい。ハッと顔をあげた稻羽の毛が、シッポの先からゾワワと逆立った。
「ずっと前ですが私、耳にした事が御座います。大陸にも根の国が在ると。西では『冥界』、東では『地獄』と呼び、中つ国では考えられないようなコトが出来てしまうとか。」
神議り@出雲、神を一九社に御送りすれば任務完了。使わしめたちは束の間の休暇を楽しむ。観光や美食、交流会や勉強会も開かれます。
観光地住みアルある、でしょうか? 近くに有名な場所があっても、行ってみようとは思わないモノなのですよ。珍しくも何ともナイから。
因幡出身の稻羽は思い立ち、出雲観光を楽しむ事にしました。
その時、行動を共にしたのが流。渦風神の使わしめはリビアで生まれ育ち、エジプトで死んだ博識なメスの猫又デス。
「大陸では天つ国を『天獄』、根の国を『地獄』と呼び、天獄では『霊獣』と呼ばれる獣を幼い時から育て、その腹を生きたま掻っ捌き、怪しい術に使うそうです。」
ゾゾゾッ。
「そ、その怪しい術とは。」
「はい。流さまも耳にしたダケで、見た事はナイそうですが・・・・・・。」
ですが何だ! 気になる。早ぉ申せ。
「『雷獣』なる神獣の命を引き換えにすれば、どんなに遠く離れたトコロへも行けるトカ。」
ヒィッ。
「その雷獣とやらは、どのような獣なのだ。」
「形は仔犬に似て、色は雨雲のよう。頭は長く喙は黒く、狐のような尾と鷲のような爪を持つそうです。」
怖い、強そう。
「大陸の妖怪が天獄から雷獣を手に入れ、怪しい術に使こうた。私には、そうとしか思えないのです。」
確かに、他に思い浮かばない。
・・・・・・大陸の妖怪は皆、そのように恐ろしい事を遣って退けるのか? だとすればシッカリ確かめ、付き合いを考えねば。いや、その前に。
「稻羽、急ぎ渦風社へ。」
「ハッ。」
・・・・・・ニャンでコウなった。
和山社から使い隠が飛んで来て、オッソロシイ事を言った。
大貝山の統べる地にある隠の国、明里。悪取神が王として治められる地の一つ、松田に中国妖怪が押し寄せたと。
嘘でしょう? 嘘だと言って!
「落ち着きなさい、流。」
愛猫、じゃない。使わしめを膝に御乗せ遊ばし、ナデナデ為さる渦風神。ほんの少し憂え顔。
大陸の妖怪が明里、それも松田に兵を送った。
御犬社の祝だった悪取神は、闇の中でも扱いが難しいとされる『悪取の力』を授かり『獣の力』、『滅びの力』も受け継がれた隠神で在らせられる。
そうそう恐ろしい事は起こらぬ、と思う。思いたい。