11-13 大事です
大陸の言の葉など分からん。
瓢の民が大陸のドコから来たのか、どのように暮らしていたのか。なぜ国を捨て親を捨て、やまとにドッと逃げ込んだのかも。
「大陸の兵に生き別れた親、兄や弟が居ても戦えるのか。見知った妖怪を殺せるのか。」
戦とは、そうしたモノ。
大陸から攻めてくれば迷わず、やまとに入る前に仕留める。力を揮うのは妖怪の国守、支えるのは戦いなれた隠。その後ろに瓢の民。
傷ついた兵を、生きる事を諦めない兵を片付けるのだ。心に罅が入り、血の涙を流すだろう。
「・・・・・・はい。瓢の民は皆、生きるため生き残るため、海を越えました。やまとに国を建て、静かに暮らす事を夢見て。」
鎮の西国。儺国の外れにアンナとマリィが吸い尽くし、残された骸を妖怪が食らった事で居抜きとなった国に建国。
大社に認めさせようと押し掛けるも滅亡。
稻羽から条件付きで、人の世の外れに『異なる国の民』として生きることを認められた。
「そうか。」
引っ越したのは儺国、郡山。
隠の世では無く人の世の外れ、闇が集まるが猫神の目が光っている地。瓢は国ではなく、妖怪の町である。
「稻羽さま。これは私のカンですが、やまとに先遣隊が」
「急ぎ申し上げます。大陸から来た妖怪の兵が大貝山の統べる地、明里の国の松田にて生け捕られました。悪取神は急ぎ大貝神に報せ告げ為さり、和山社へ。」
隠の世より霧雲山の治め隠、狗神の使い狗が飛び込んできた。事が事なので、和山三嶺の使い隠が直接報告。
「ナにィ。」
大国主神の御声が裏返りました。稻羽は落ち着いて、ません。後ろ足をタシタシしてマス。
「竜、よく知らせてくれた。滑に宜しく伝えておくれ。」
大国主神、ニッコリ。
眼光鋭いウサちゃんズに見つめられ、御気づき遊ばした。これ、秘密よ。
「ハッ。」
察しが早い竜、一礼して下がる。心の中では『嫌な予感が当たっちまった』と大騒ぎ。
大陸の軍神が荒ぶり為さるなら、諏訪に御坐す建御名方神、明里に御坐す悪取神の御力を賜る事になろう。
にしてもナゼ中の西国ではなく中の東国、それも大貝山の統べる地なのだ。鎮の西国に沿ってグルッと回り、四つ国と南国を通り過ぎて火の山島へ向かうなど。
「どう考えてもオカシイ。」
稻羽が呟く。
「何がオカシイのか、話しておくれ。」
大国主神に尋ねられ、スッと前足を揃えた。
「申し上げます。幾ら妖怪でも荒れ狂う外海を、陸に上がる事なく舟で行くなど私、考えられません。」
ん?
「大陸にも海神は御坐すでしょう。けれど御力を揮われたなら、やまとの海神が御気づき遊ばすハズ。」
うんうん。
「狭門を抜け、険しく通い難い海路を行くのに要るのは食べ物より水です。見つからぬよう行くなら外海ですが、内海を行くのは飲める水を手に入れるため。」
そうなんだ。
「戦好きが内海を行くのは、外海を行きたくても行けぬから。海を渡る商い人なら知っている事、大陸の妖怪が知らぬとは思えません。」
渇きに苦しむ、干乾びると分かっていれば止めるよね。
「舟に積み込むのは長く食べられるよう、干したり塩に漬けたりした物。陸でなら美味しく食べられますが舟の上、水甕が空になれば雨乞いするしかアリマセン。」
「それは大事だ。」
「はい、大事です。」