11-12 瓢の民として
お願い、嘘だと言って。
「瓢の民は皆『やまとに骨を埋める』と心に決めて居ります。大陸の戦に加わる気など御座いません。」
瓢の臣、竜が訴える。
「そうか。」
そうなんだ。い、稻羽? 目がコワイ。小さな体が山のように大きく見えるぞ。
「大国主神、宜しいでしょうか。」
「う、うむ。」
ゴクリ。
「竜よ、滑の代わりとして答えよ。瓢は大陸の妖怪として戦う気が無いのか、大陸との戦に加わる気が無いのか。どちらだ。」
どっ、『どちら』って。考えろ竜! 返答次第では国を追われ、瓢の民が命を落とす事になる。
先ず、大陸軍として参戦する気は無い。
亡命したんだ、従軍を強制されても拒否する。断固として主張を曲げないゾ。
改めて考えてみれば瓢の民って、不安定な身分だよなぁ。やまとに『異なる国の民』として在留できるケド、瓢の町でしか生きられない。
義務を果たさなければ権利を主張できないし、自由には責任が伴う。当然だ。
今の暮らしに不足も不満も無く、十分に満足している。とても幸せだ。身分が不安定なダケ。
『中国妖怪だが中国には戻れない』それが瓢の民。故郷に戻れるなら戻りたいよ。でも『国に戻りたいか』と問われれば、『戻りたくない』と即答する。
私ダケでなく瓢の皆、階級に関係なく落伍者の烙印を押された脱落妖怪。
力量が足りないんじゃ無い、適正な評価が得られないダケ。努力が足りないんじゃ無い、責任者が責任を取らなかったダケ。成果が上がらないんじゃ無い、横取りされたダケ。失敗を重ねたんじゃ無い、擦り付けられたダケ。
全ての努力が報われるワケでは無い、理解している。でも、もう頑張れないんだ。疲れた、生きるのに疲れた。
ボロ雑巾のように扱われ、水が出ないのに絞りに絞られ千切れた繊維屑。精根尽きて倒れ、廃棄処分になった動物。
それが曾ての私たち。
掃き溜めで朽ちる前に立ち上がった、いや手を伸ばしたのが滑さま。
光を求めて起き上がり、頭を後ろにガクンと倒して視線を上げ、息を吐きながら前を向いた。
追い詰められたり壊されたり、傷つけられたり歪められた私たちを見つめ、仰ったんだ。『ココから逃げよう』と。
使い潰されたのは下級妖怪だけじゃない。中級妖怪に上級妖怪、優秀だが不器用な特級妖怪も。
盛者必衰は世の習い。いつまでも権勢を欲しいままに出来るワケが無い。皇帝であっても覇者であっても、管理者でも生産者でも同じ妖怪なのだから。
「答えよ。」
ハッ!
「言上します。瓢の民は老若貴賎、性別に関係なく『異なる国の民』として、やまとの安全と発展に寄与いたします。」
キリッ。
「・・・・・・『大陸の妖怪』として戦う気は無い。けれど『異なる国の民』として戦に加わり、大陸の妖怪と戦うと?」
「ハイッ。」
我らを安い賃金で朝から晩まで奴隷のように働く、使い捨て妖怪として扱った大陸なんぞに、たった一つの命を懸けられるワケがない!
贅沢は言わんよ。柔らかい衣を着て、新鮮で栄養価の高い物を食べ、雨漏りや隙間風に悩まされる事なく生活できる家で暮らす。
田畑を耕したり狩りや釣りをして子を育て、孫に囲まれて生涯を閉じる。そんな妖怪に私はなりたい。
亡命妖怪だ、故郷には戻れない。生きて父母に会う事も無い。けれど、それでも大陸で飼われるより瓢の民として、やまとで生きる方が幸せなんだ。