5-23 目の上の瘤
ヒサは嬉しかった。セイが、乱雲山から出たのだ。目の上の瘤が消えた。それも、アッサリ。
「アンタたち、何してるの。早く、片付けなさいよ。」
口ぶりはセイ、そのもの。
「ヒサも、どっか行かないかな。」
「聞こえたわよ、ノブ。そうだ、アンタ。」
「何だよ。」
「コウに伝えてよ。あなたのヒサが、会いたがっているって。」
「はぁ? コウはツウが好きなんだ。ヒサなんて、見向きもしない。諦めろよ。」
「何ですって! コウは私のモノよ。」
「コウはな、ツウと誓ったんだ。目を覚ませ。」
「あ、頭が、い、痛い。」
フクの顔色が悪い。真っ青である。
「少し休めよ。ツルに任せろ。」
「何なら、コンが化けるぞ。」
「えっ。まぁ、いいけど。」
「ゴロゴロさま。セイは今、どうしていますか。」
「知らん。」
「フクよ、忘れろ。アレは自ら、山を出たのだ。」
「鼻唄交りでな。だから、もう忘れろ。」
なんだかんだ言っても、実は優しい? 三妖怪。
「フクさま。薬湯です、どうぞ。」
「私に手伝えることは、ありませんか?」
な、なんて優しいの。
「ツウ、コウ。ありがとう。」
フクの心が晴れる。
「オレは、試み村へ。ツウは、社に残ります。宜しいでしょうか。」
「ええ、もちろん。」
「なるべく、早く戻るね。」
「はい。ねぇ、コウ。」
「なあに。」
「いってらっしゃい。」
「行ってきます。」
う、初々しい。
独り身のフクは思った。私にもいつか、こんな日が・・・・・・来る?
「夢はな、叶えるためにある。」
「そうだ。諦めるな。」
「いつか、出会える。」
さりげなく? 気を遣う、三妖怪。
ヒサは、我が道を行く。まわりが何を言おうとも、決して認めない。コウはツウと別れ、己のもとへ。そう信じて疑わないのだ。もう、憐れとしか。
「ヒサ。あなたに、割り当てられた事でしょう。」
「私は」
「選ばれた娘では、ありません。」
「なっ、認めないわよ。私は」
「何度でも言います。選ばれた娘では、ありません。」
セイの次は、サエね。消えてもらうわ。




