11-10 そういうコトですか
悪取神はアサを御呼び遊ばし、仰った。『直ぐに戻る』と。
明里で初めに生まれた合いの子、アサには心の声が聞こえる。とても耳が良いホウと共に、明里の守りを担うシッカリ者。少しの間なら任せられる。
悪取社から千砂社、千砂社から耶万社、耶万社から大貝社へ。
千砂神は加津社、会岐社、大石社。耶万神は殺社、大浦社、氛冶社、宿儺社に使いを出され、伝え為さった。『明里の地に大陸の妖怪が現れた』と。
大貝神はフンと胸を張られ、伝声管ならぬ伝声糸で和山社に報告。使わしめ土、涙目で拍手。
丸投げ為さらず御自ら、キチンと報告するという偉業? を成し遂げられたのだ。赤飯を炊いて祝いそうな勢いである。
「ナニッ。」
『木の枝ポーン広場』で愛犬マルコと戯れる愛し子マルを見つめ、心の洗濯中だった大蛇神。緊急連絡を受け、仕方なく和山社へ。で真っ青。
「申し上げます。悪取社より『大蛇神に御目通り願いたい』と」
「会おう、今すぐ。」
先触れです。謁見の申し込みですヨ、落ち着いて。
お土産に持って来たのは明里名物、干した浅蜊と蛤の詰め合わせ。悪取の糸で作った囲いの中で、砂を吐かせてシッカリ干したモノ。とっても美味しいヨ。
通された部屋でドキドキしながら、大蛇神を御待ち申し上げる明。キチンと座って待ってマス。
シュルシュルシュルシュルゥ。
「話を聞こう!・・・・・・ん。」
お座りワンコ、キョトン。
「大貝山の統べる地、明里より参りました。悪取神の使わしめ、明で御座います。」
直ぐに頭を切り替え、キチンと御挨拶。
「明里より干し貝を御持ちしました。皆さまで御召上がりください。」
カンペキ!
「これは良い品だ。」
良村のマルは干した若布入りの粥も好きだが、干し貝入りの粥が大好物。
「ありがとう。」
霧雲山の統べる地にある良山は、海から遠く離れている。
良村のセンもノリも舟の扱いが上手い。行きは川の流れに乗ってスイスイ、けれど帰りは流れに逆らって漕ぎ続けるのだ。とても疲れる。
なかなか口に出来ない干し貝を持ち帰ったら、きっと大喜びするだろう。
愛し子の喜ぶ顔を思い浮かべた大蛇神、それはそれは幸せそうに微笑み為さった。
「そういうコトですか。」
和山から戻った明が呟く。
御目通りを願い、先触れに伺ったダケなのに『早いな』と思ったんです。贈り物が良くても『明くる日』は早過ぎますもの。
困りました。やっと落ち着いたのに、大陸の兵が攻め込むなんて。
にしてもオカシイですね。遠くから来た事を差し引いても、兵の数が少ないように思います。これからもっと、もっと押し寄せるのでしょうか。
「明、人の世と隠の世を行き来して疲れただろう。ユックリお休み。」
美味しい夕餉を食べ、お腹イッパイ。微笑みながら肩を撫でられ、疲れも凝りも吹っ飛んだ。優しい御声に癒され、チョッピリ眠くなる。
「はい、悪取様。お休みなさい。」
ペコリと頭を下げ、悪取社の横にある柞の洞へスルリ。クワァっと欠伸し、クルンと丸まって目を閉じる。
あっという間に夢の中。
石積みの社が嫌いなワケじゃない。ただ住み慣れた洞が、悪取の匂いがする洞の方が落ち着くダケ。