11-9 中国妖怪、ホイホイに掛かる
御挨拶に伺うと決めたものの、イキナリ和山社へ! というのは如何なモノか。というコトで先ず一山から隠の世に入り、鳶神に御伺いを立てる事になった。
急ぎ拵えられた輿に、干し貝が入った籠を二つ積み込む。
「行って参ります。」
明が尾を振り、ご挨拶。
「気を付けて。」
悪取に撫でられ、ウットリ。
「はい。」
キュルン。
明を乗せた輿がフワリと浮かび、明里から一山へ。見えなくなるまで手を振って見送り、空を見上げた。
人の世なら社を通れば良い。けれど人の世と隠の世を行き来するなら、壊れ難くてシッカリした造りの輿が要る。
乗っているのが神じゃなくても、神輿を襲おうと考えるモノなどイナイから。
「庇い過ぎカナ。」
蓋の無い箱に柱を四つ立て、覆いを設けた。
悪取の糸で荒布を織って掛けたので、風除けにもなるだろう。水と食べ物も積んだし、あの中に居れば槍が降っても守られる。
「護れれば良い。」
消えそうなホド弱弱しく、ハッとするホド美しい犲の隠。冬毛にしては白いと思ったが、赤目を見て白子だと判った。
獣は白子だからと群れから出される事は無い。が、他の獣からは狙われる。光に弱いのだ。ほんの少しでも逃げるのが遅れれば囮にされてしまう。
群れを守るために。
「おや、またかい。」
松田の罠に獲物が掛かった。この感じ、戦場から逃げた兵か。
松田まで来るとすれば実山、岸多、近海に挑んだのだろう。浅木、早稲、風見、大浦、氛冶、宿儺は遠い。
何れも戦い慣れた強い国。イキナリ仕掛けても負けるのに、ナゼ幾度も繰り返す。
「・・・・・・ドコから来た。」
衣の中に甲、いや鎧を身に付けている。
大荒れに荒れた真中の七国では手に入らない品。となると西国、海の向こうから渡り来たか。
「〇×△、※◇!」
サッパリ分からん。が、やまと人では無い。隠でもナイとなると、残るは一つ。
「ギャァァァ。」
試しに一体、タプタプ袋に入れてみた。すると黒い煙を出しながらドロッドロに融け、スッと清められる。
「闇堕ち妖怪か。」
海の向こう、大陸では大戦がアチコチで繰り広げられている。出雲での神議り、いや一九社で耳にした。
「△◇、□×〇!」
何を言っているのか分からんが、激しく罵られているのは確かだ。軽く黙らせよう、煩いし。
「ギャッ。」
溶解液を数滴、水鉄砲のように飛ばす。
ジュジュジュと着弾、穴だらけ。吊られたままクネクネ身を捩り、静かになった。逆さまで激しく動いた事で頭に血が溜まり、気を失ったのだろう。
捨て置いても良いが死なれては困る。そのまま松田から松裏に運び。頭を上に戻して獄に繋ぐ。
明里の獄は白い。
両の手足、額も動かないようにされ、キツク猿轡を噛ませられるのだ。動けない叫べない、水も飲めない、何も聞こえない。
そんなトコロに囚われれば深く濃い闇を纏っていても、心や魂にピキピキと罅が入って脆くなる。
「困ったナ。」
明は御使い中。悪取社に、というより明里には祝が居ない。夜なら犲に頼めるが今は昼、出れば目がチカチカしてしまう。
けれど急ぎ、この事を御伝えせねば。