11-7 選ばれた子
山守の祝が考えるコトなんてバレバレよ。
矢弦社では人の心を操る力を持つ祝は皆、矢弦神の愛し子になる。けれど釜戸の祝エイ、雲井の祝フクは違う。
エイもフクも愛し子だが、良村のマルと同じで選ばれた子。
「そろそろカナ。」
甘い実を食べ終え、ポツリ。
「エッ、もう良いのかい?」
エイの従兄で祝人のササ、一口サイズの御握りを持ってパチクリ。
「わぁ、美味しそう。」
裁きは続くよ、あと二つ。モリモリ食べなきゃ身が持たない。清めの力を持つササはエイのため、心を込めてオヤツを作る。
「ゆっくり、お上がり。」
エイもフクも食いしん坊だが、タダの食いしん坊では無い。離れていても山守社の動き、祝の考えを推し量る力も持つ。
「ソロソロかしら。」
熊の干し肉をモグモグ、ゴックン。遠くを見つめて呟いた。
「そうだな。」
「食べ過ぎは良くない。」
「湖の周りを歩くか。」
雲井神の使わしめゴロゴロ、使い狐コン、使い烏キラ。揃って祝の身を案じる。
「そんなに食べ・・・・・・たのね、私。」
フク真っ青、三妖怪ポカァン。
山守の祝は先見や先読の力を持つ祝を恐れ、生贄や人柱にして殺そうとするフシがある。だから先読の力を生まれ持ったタエを良村に託すのでは無く、茅野に託した。
早稲の生き残りで戦い慣れているが、良村は新しい村。狙われやすい子を二人も託せない。
マルに先見や先読の力は無いが、清めと守りの力を生まれ持つ。それも祝の力を持つ者が多いのに巫と覡がいる、鴫山社の祝女の孫娘。
あの祝が知れば必ず、何が何でも奪おうと考えるハズ。
茅野に向けられた目が他に移るのを待って、サッと良村に移す。落ち着いた頃に良村から野呂、野呂から大泉へ。
「うふふ、聞こえる。聞こえるわ。」
和山は隠の世、乱雲山は人の世にあるが近い。
和山三嶺の壱、天霧山。弐、霧雲山。参、乱雲山。その頂を結んだ真中にあるのが和山社。
「閉じ込められて大騒ぎ。」
人の世では乱雲山と霧雲山は離れているが、隠の世では連なっている。
年を重ねて力を増したフクには岩割山、日吉山、釜戸山に加えて天霧山、霧雲山にいる祝の考えが、手に取るように分かりマス。
「イケナイわ、その考え。」
マルさま、お手伝いします。
谷河のハヤさまには霧を操る力、野比のタマさまには先見の力、野呂のタタさまには心を読む力と、顔を見て考えを読む技と術が御座いますの。
マルさまの守りの力を合わせれば、きっと上手く行きますわ。オホホ。
「クラもソウ思うでしょう?」
クラは闇の力を生まれ持ち、人だが隠の世で暮らす禰宜。まだ閉ざされているので出られないが、人の世も隠の世も同じ乱雲山。声はシッカリ届く。
「何を『そう思う』のか分かりませんが、山守の闇が深まりました。テイですね。」
テイは目の色も髪の色も薄く、血の管が透けて見える元祖呪い祝。人でも隠でも無い。肉体は滅んでいるのに魂ダケが残り、歴代山守の祝を支配する何か。
というよりバケモノ。
「急いで議らなきゃ。」
野呂も大泉も受け入れ態勢バッチリ。谷河の狩り人も木菟も鷲の目も、山守と祝辺を常に警戒している。
鎮野社、大蛇社、大実社もシッカリ支えます!