11-6 もうイヤ
鎮野社には樹齢ウン万年と言われる御神木があり、鎮野で生まれた嬰児に木、風、声の力を授ける。
木の力を授けられた子は『木の子』、風の力を授けられた子は『風の子』、心の声を聞く力を授けられた子は『声の子』と呼ばれ、将来の幹部候補生として育てられる決まりだ。
御神木に選ばれた子は例外なく、通いの継ぐ子。住み込みの継ぐ子は他から逃げてきた、祝の力を生まれ持つ子。
どちらも鎮野社の継ぐ子、教官は違うが扱いは同じ。木の子は社の司、風の子は禰宜、声の子は祝。他の継ぐ子は祝人頭か祝女頭につく。
「困りましたね。」
鎮野の社の司が呟く。
「山守ですか。」
禰宜が尋ねた。
「はい。釜戸の裁きが気に入らず、奪おうと考えているようです。親元に戻れず、育つまで預けられた子を。」
「ハァァ。」
釜戸の企てにより散らばったが、北山が集め産ませた子が育ち、そろそろ託されるハズ。釜戸は雲井では無く、他に預けたから幾らでも奪える。
動くなら今だ!
「野比と野呂の動きを探れ。」
山守の祝が継ぐ子を呼び出し、命じた。
「は?」
いやイヤ、忍びには敵いません。野比には木菟、野呂には鷲の目が居るんですよ。
「行け。」
「祝。知りたい事、狙いは何ですか。」
社の司や禰宜にシッカリお伝え出来るよう、聞き出せるダケ聞き出さなきゃ。
『山守神は祝の力を生まれ持つ、強い生贄を御求めだ』なんてコトを信じて疑わないウチの祝は、言い出したら聞かない。
動き出したら止まらない困ったヤツ。じゃなくて、困った人だから。
「霧雲山の統べる地に隠された子が育ち、野呂か野比を通して鎮野に入る。ソレを奪うのだ。」
・・・・・・ソウデスカ。アハハ、ソウキタカ。
霧雲山を統べ為さるのは山守神、御山の頂を守るのは祝辺の守。
山守と祝辺は対対だが、何れも黄泉平坂を守る鎮野には手を出せない。よって山守や祝辺から守りたい人、物を託すには打って付け。
けれど鎮野に頼るのは最終手段。
最初に頼るなら霧雲山の村で唯一山守に関わらないと宣言し、木菟を派遣し祝辺を監視中。不気味なほど強く、永久中立を謳う野比社。
若しくは獣のように強いが人を助け、霧雲山の村で唯一祝辺に人を送らないと宣言! 永久中立を謳う野呂社。
「お断りします。」
継ぐ子に断られ、見開く。
「祝に、山守の祝に逆らうのか!」
「はい。」
素気無く断られ、顔を赤らめる。オッと危ない、いろんな物が飛んできた。落ち着け祝、相手は子だ。
「止めなさい!」
社の司が祝を羽交い絞めにし、禰宜が継ぐ子を逃がす。
「放せ、おホォンムグ。」
禰宜に猿轡を噛まされ、頭をブンブン。抵抗虚しくキツク結ばれ、手足まで縛られた。
「獄に運びましょう。」
「はい。」
縛った手足に朸を通し、それぞれ肩に担ぐ。そのままエッサと獄まで行き、着くなりポイと放り込んだ。
直ぐ扉を閉ざし、閂を掛ける。
「釜戸は人、雲井は妖怪を裁く社。釜戸山と乱雲山が動けば天霧山が動き、和山の頂に届くでしょう。そうなれば、分かりますね。」
ギッと睨みつける祝。
社の司も禰宜も涼しい顔をしているが、心の中では『もうイヤ』と大騒ぎ。