11-5 怖くて聞けない
清めの力を生まれ持った祝が、生きているのに清めの力を揮えなくなった。呪いに消されたか、奪われたか。
消されたのだろう。
祝の力を消すホドの呪い、闇とは違うソレは清らな祝をも歪ませる。
隠の世が閉ざされている今、奥津城に放り込まれる事は無い。となると祝辺の獄。いや、気の毒だが死ぬまで待とう。
「テイが戻れば食らい付き、引き出せるだけ引き出せ。良いな。」
『はい。』
ひとつ守が姿を消すと、清らだった獄に冷たい風が吹き込んだ。人も隠も居ないのに、何かに狙われている。そんな気がして落ち着かない。
このままテイが戻らなければ、どうしよう。戻っても気づかれて逃げられたら、聞き出せなければ?
隠の守の言い付けだ、破れない。けれど思ってしまう。もし、と。
「御帰りなさいませ。」
ひとつ守を出迎えたのは、ふたつ守とみつ守。どちらも闇の力を持つ。
「ただいま。」
幼子の頬に触れ、優しく微笑む。
ふたつ守は対象に闇を植え付け、支配する力を持つ元、継ぐ子。アブナイ幼女として有名だった。
強い力を持ちながら生まれつき病弱だったので、山守の生贄候補になる。迷わず闇を植え付け生き延びるも、人の守になって直ぐに病死。
ひとつ守の言いつけダケは守る過激派。
みつ守は対象に闇を植え付け、操り動かす力を持つ元、継ぐ子。祝女と狩り人の倅は母を生贄にした山守の祝を強く憎み、闇を宿す。
暴走した闇に呑み込まれそうになった時、ひとつ守に清められ、ふたつ守に押さえつけられた事で正気に戻った自称、穏健派。
「変わった事は?」
「ありません。」
声を合わせてニッコリ。
己と同じ思いをさせる力を持つマホが苦笑いしているので、ひと暴れして御仕置きされたのだろう。
何をしたのかは・・・・・・、怖くて聞けない。
「そうか。」
「ハイッ。」
マホは北山での祝攫いの裁きに出向き、助け出された祝の力を持つ子を連れ帰ろうと画策した隠の守である。
大蛇とコッコにより闇へ落とされ更生。
霧雲山の統べる地を守るために人の守を嗾け、統べる地の長に据えた。と言えば、お判りいただけるだろうか。
「ひとつ守。少し、宜しいでしょうか。」
元気印が奥に戻るのを待って、マホが切り出す。
「では、こちらへ。」
祝社は広いが守の数も多い。
ひとつ守と人の守は個室を持つが、他の守は相部屋だ。当たり前だが男女別。隠になった順に割り振られるが、話し合いにより部屋替え可能。
反りが合わない事も有るので。
「何が有ったのでしょう。」
個室は広いが仕事部屋を兼ねている。隣の部屋には人の守が居るので、情報共有もラクラク。
「鎮森の奥から、怯え泣く声が聞こえるのです。小さな声なので末の事でしょう。けれど霧雲山で、それも山守の祝に憑く何かが恐ろしい事を為すのではと。」
悪いカンほど当たるモノ。
鎮森に生える木は全て、中つ国のドコかと繋がっている。人の世でも隠の世でも、どんなに離れていても声や音が届くのだ。
「鎮野には確か、木の声が聞こえる祝が居ましたね。」
「はい。」
鎮野社は根の国に繋がっているため、山守も祝辺も鎮野には手を出せない。
社を通して話す事は出来る。けれど『同じ霧雲山に居るから』と呼び寄せたり、一人でも連れ去れば・・・・・・。間違いナク隠でも消される。
大泉、野比、野呂より厄介な存在、それが鎮野。