11-4 事情聴取
離れから獄へ移動。そこに転がっていたのは、アラレもナイ乱れ姿を曝す山守の祝。
「ホウ、確かに蝉だ。」
ひっくり返ってピクッ、ピクピク。
「息は・・・・・・あります。」
猿轡を外し、禰宜が確かめた。
「水を掛けよう。」
と言いながら社の司、汲んでいた滝の水をバシャッ。
「ヒャァ。」
祝がカッと見開き、飛び起きる。
「お告げです。バラバラになった真中の七国を、倭国が一つに纏めるでしょう。」
「ハッハッハ、それは良い。」
その場に居た者は『どうせ外れる』と思い、笑った。
倭国は大国だが弱くナイだけで強くはナイ。倭王がドウコウできるとは思えないが、いつかは誰かが纏めるだろう。
まぁ、ずっと先の話だ。
『もう! ホントの事なんだからね』プンプン、なら可愛い。しかし山守の祝は怒った鮐、丸くなった針鼠、身を守る山荒らし状態。
見様によってはカワイイ? うん、そうだね。尖がってるケド。
「笑うな! 荒ぶられるぞ。」
国会でヤジを飛ばす議員よろしく唾を吐く祝。
ドクフキコブラの攻撃のようだが、残念な印象を受ける。武器としてはスゴイけど、侍が鉄砲を使うような感じだ。
「倭国へ使いを。山守に取り込み、祝辺をンンッ。」
禰宜がグッと布を噛ませ、腕で首を絞めながらキツク括った。慣れているが、誰にでも行うワケでは無い。
「山守は祝辺に生かされている。霧雲山を、統べる地を守れるのは祝辺の守。忘れるな。」
そう言って立ち上がり、獄の扉をバタンと閉じた。
幾らオカシクても気付く。怒らせてはイケナイ人を怒らせた事、言の葉が誰にも届かない事に。
「ウムンンッ。」 ナンデヨォ。
私は祝。神の御声を届けられる・・・・・・のは、祝じゃなく巫よね。なのにナゼ私、口寄せなんて。エッと、あれ。いつから、いつから私は巫になったの。
違う、違うわ、私は祝。そう祝、祝は口寄せなんてシナイ。
モワッと出た闇に包まれ、祝の目から光が消える。髪を後ろから引かれたように顎を上げ、僅かな隙間から何かが抜けた。
バタンと倒れ、黒い髪が白くなってゆく。
「ホウ。」
ひとつ守が現れ、見下す。その目は冷たく、鷲のように鋭い。
「山守の祝よ、聞こえるな。」
指どころか目の玉も動かせない。怖くて恐ろしくて堪らないが、『はい』と心の声を出した。
「ヌシの体を奪ったモノの名は。」
名? 思い出せ。はじめに聞いたハズ。
あの時、鼻で笑いながら・・・・・・。『テイです。はじまりの祝だと、そう聞きました。』
「テイ、はじまりの。」
山守で生まれ育った初めの祝は、テイではなくツルだ。シズエさまが仰ったのだ、違い無い。
いや待て。呪いを受けたか、呪い始めの祝だとすれば。
「名の他に何か、思い出した事は。」
他に? そうだ、アレは『女でした。目の色も髪の色も薄く、血の管が透けて見えました。人でも隠でもありません。』
「そうか。」
ツルは男で、清めの力を生まれ持つ人だった。となるとテイは、祝は祝でも呪い始めの祝に違い無い。
他の祝は力を失い、根の国へ行くのにテイは留まっている。ナゼだ。
力を失ったのだ、人として死んだのだろう。姿を保って、いや違う。山守の祝を器とし、祝辺を潰そうとする、のは。
「清めの力、使えるか。」
あ、あれ。思うように力が入らない。それにオカシイ、何かが足りない。
欠けたんだ。どうしよう! 違う。『使えません。使えなくなりました。』