11-3 どうせ外れる
両の手足を縛られ、猿轡を填めたまま獄に放り込まれた。
芋虫状態にも拘らずジッタンバッタン。ムクッと起き上がり正座したと思ったら、頭をガンガン振ってグゥラグラ。横にドタンと倒れ失神。
「祝がオカシクなりました!」
獄の見張りをしていた継ぐ子が社に駆け込み、アワアワする。けれど『いつものコトさ』としか思わない。
山守の祝は皆、祝になるとオカシクなるから。
「さぁ、水をお飲み。落ち着くよ。」
禰宜から杯を受け取り、トクトク注がれた水をゴクリ。フゥ、美味しかった。じゃない!
「祝が木から落ちた蝉のように、ひっくり返りました。」
ジジッ。
「鼻に手を当てたら息が。だから生きてます、生きてました。」
「そうか、わかった。ありがとう。」
社の司が継ぐ子の頭を撫で、ニコリ。
賑やかなのは離れダケでは無い。社も同じ。
「ねぇ、どうして。」
継ぐ子だった時にはシッカリ見えていたし、ちゃんと聞こえていた。なのに祝になると見えず、聞こえず。
「長らく人の世に居りますが・・・・・・。」
なぜウチの祝は巫でも無いのに、女も男も神降ろしするのだ。真なら何も言わぬが全て偽り。多くの命が奪われ、祝辺へ。
「サッパリ分かりません。」
呪いなら解くしかナイと山守神、大泉神、鎮野神の三柱で清めの儀が執り行われた。が、何も変わらない。
思い切って大蛇神に御頼みし、山守を隈なく御調べいただく。すると『呪われているのは祝だけで、継ぐ子は清らだ』と判った。
「叢闇の品といい山守祝の呪いといい、人の世は恐ろしい。」
流し目で溜息を吐く姿が悩ましい九尾の白狐、シズエは山守神の使わしめ。山守神は女神。『ガオォ』と、は・・・・・・なりませんね。
「怖い事を言わないで。」
衣を被られ、ウルウル。
「山守神。思い切って、悪取神に御頼みしては。」
「・・・・・・したわ、一九社で。」
神議り@出雲、最終日。酒より甘いモノが御好きらしいと加津神に伺い、神在団子を手に御挨拶。
神歴は浅いが元、御犬社の祝。闇の中でも扱いが難しいと言われる『悪取の力』を授かり、『獣の力』と『滅びの力』も受け継いだ隠。
慎重に計画を練り、御頼みしました。
「断られてしまった、のですね。」
悪取神は隠の国、明里王でも在らせられる。神議りの間は隠の世が御守りくださるが、終わればオシマイ。寄り道せず、真っ直ぐ明里に戻ります。
それに今、人の世は大海賊時代! じゃなくて農地や水源、食糧を巡って集落同士が争うオソロシイ時代。
アレコレ張り巡らせていても長く空けるのは難しい、というより離れられない。
社の横に転がして、悪取社へシズエを派遣。そのうえで明里から山守に御呼びする、という手も有るには有るがムリ。理由は上記の通り。
幾ら九尾の妖狐でも、対象を保護するか処分するか、瞬時に判断できません。纏めて消し炭にするでしょう。
なら祝が霧雲山を出れば良い、と思いますよね。ダメなんです。
オカシクなっても、見えるハズの御姿が見えず、聞こえるハズの御声が聞こえなくても祝は祝。霧雲山から出せません。
良いじゃん? 良くナイよ。
隠の世を通れないのだから人の世。霧雲山の統べる地から大貝山の統べる地へ、あの祝を舟で運べる人なんて良村のノリかセンくらい。
もし何かあれば大蛇神の愛し子、マルが悲しむ。マルが悲しめば、ブルル。考えたダケで恐ろしい。
「隠の世が開いたら、と。」
「それは良う御座いました。」
としか言えまセン。トホホ。




