11-2 ですよねぇ
山越烏が仕えるのは山守神、と山守の祝。
心の中では『どうなんだろう』と思っていても、『行け』と言われれば行くしかナイ。平良の烏を嫌っているワケでは、ハイ嫌いです。
羨ましくナンカ・・・・・・羨ましいよぉ。何だよ、悪い? 好きな子に突っかかるのと同じさ、羨ましいから突っかかるの!
「カァカァァ。」 エラベナインダヨォォ。
山越烏、ぶっちゃけた。
「・・・・・・カァ。」 ・・・・・・ソウカ。
平良の烏がスッと、甘い木の実を出した。ボロボロ泣きながらパクリ。ゴックンするとダァっと、堰を切ったように語り始める。
山守神の仰せに従うのは良い。けれど山守の祝はオカシイとしか思えないし、イキナリだから困る。困るけど従うしかナイから飛ぶ。
飛ぶよ、烏だもん。行くよ、使い烏だもん。でもね、だけどね。『他とは違う娘を探せ』とか『倅でも良いから連れて来い』とか、もう嫌なんだ。
平良は良いよね。
だって祝辺の守って、みんな優しいもん。食べ物くれるし、清めの水を飲ませてくれるし、ナデナデしてくれるし・・・・・・グスン。
山越烏だけど、祝社で働きたい。でもさ、従うしかナイんだよ。オレたち、山越烏だから。
「カァカァ。」 ハナシタラスッキリシタ。
「カァ。」 マタオイデ。
「カァ。」 アリガトウ。
山越烏は今日も行く。雨の日も風の日も、雪が降っても嵐が来ても羽を動かし飛び回る。って、真っ黒クロだ。
隠の世が隠り世に変わる前に山守社として何とかしなきゃ、隠り世の労働基準監督署へ通報されるよ。暗黒一覧表に載るよ。
奉行所から呼び出され、白洲で会う事になっちゃうヨ。
「ウンタラタラタラ、ウンタラタァ。」
クワッ。
「ヒャァ! ブツブツブツブツ。」
バタン。ノソッ、ユゥラユラ。
「お告げだ。遥か南、明里の王が産ませた娘を人柱とせよ。拒めば闇が溢れ、大戦になるだろう。」
・・・・・・。
山守の社の司、禰宜、継ぐ子たちが黙り込むのは当たり前。
ウチの祝、なに言っちゃってんの? いつもの事だけどオカシイ。口寄せをするのは巫、祝ではアリマセン。なのに頭を振って叫び、髪も衣も乱して倒れるなんて。
「だぁかぁらぁ、要らないって言ってるでしょう!」
山守神、プリプリ。
「急ぎ明里へ向かい、王の娘を差し出させよ。」
山守の祝が偉そうに言い、胸を張る。
「祝よ、聞こえぬのか。」
社の司が問い、禰宜が見つめた。
「聞こえる。贄を御求め遊ばす、山守神の御声が。」
わぁ、聞こえてない。見えてもナイね。
「要らないわ! い、り、ま、せ、ん。」
山守神が祝の耳元で御叫び遊ばす。
「何だ、その目は。早よう行かぬか。な、何を。」
社の司と禰宜が縄を手に立ち上がり、祝をキリキリ縛り上げた。
叫び出す前に継ぐ子が布を噛ませ、頭の後ろで括る。社の司が足、禰宜が腕を掴んでズゥルズル。獄にポイッと放り込み、フゥと一息。
「アレにも困ったモノだ。」
「はい。何にも知らないんでしょうね。」
山守の南東、野比の山には木菟。その北東、野呂の山には鷲の目が居る。
木菟は野比の祝、鷲の目は野呂の祝に仕える忍び。どちらも獣谷の隠れ里や良村を通して、他の地で起きたアレコレを聞く。
それは社を通して祝辺、山守にも伝えられるのだ。
「悪取神には、悪しきモノを奪う力が御有りだとか。」
「御頼み、出来ると思うか?」
社の司に問われ、禰宜が考え込む。
「難しかろう。」
山守神の使わしめシズエ、モフンと参上。
「ですよねぇ。・・・・・・ハァ。」