11-1 解けない呪い
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山守の祝が口を開く度、『どうせ外れるだろう』と笑われる。なぜ笑う。私は山守の祝、祝だぞ。
浮かび上がった血管が切れそうになって、やっと気付いた。口寄せするのは巫で、祝では無いと。
乗っ取られた体を取り戻そうと頑張るも、思うようにナラナイ。
けれど諦めれば、諦めてしまったら呪い祝に強い力を、親から子へ受け継がれる力を奪われてしまう。何が何でも止めなければ、守らなければ。
山守編、はじまります。
幾つもの山がギュッとなり、ドンと聳える霧雲山。天に近い、山守と呼ばれる山に御坐すは山守神。
山守社は頂に在ったが、移し築かれた。
はるか昔、地が大きく揺れ動いた事で社が倒れ、壊れてしまう。社の司は急ぎ人を集め、『地割れしなかった村外れに御社を移すように』と伝える。
中には傷ついた人も居たが心を一つにし、力の限りを尽くした事で霧が濃くなり、御山は霧雲山と呼ばれるようになった。
その頂が清らである限り、御山は崩れず保たれるんだとさ。
モチロン真実では無い。
山守社の祝が御勤めの最中にも拘らず、『厭きた』と言って放り出した事で山が崩れたダケ。
祝の力は無いが見た目の良い女を巫に、男を覡とし生贄や人柱として捧げ出したのも、あの祝から。
そもそも山守社を頂の北、村外れに移させたのは祝社。
霧雲山の頂を守るのは祝辺の守。人の守は人の長で、隠の守は支え。財布と胃袋をガッチリ握られているようなモノなので、山守社は祝社に頭が上がらない。
山守社の誰もが祝辺の守を恐れている。
話を戻そう。山守の地が地割れしたのは、頂の北西から北東にかけて。斜めに真っ直ぐドンと落ち、割れた。
霧雲山は水の豊かな山。頂の辺りからポコポコ、いやボコボコ噴き出していた泉から水がドッと流れ、地の割れ目が川に、日向は日陰に変わる。
となるとイロイロ使えなくなり山守の民、大慌て。
祝辺の地を奪おうと崖を上って暴れ、られるワケが無い。恐ろしく強い力を生まれ持ち、死んでも失わないのが祝辺の守。山守の祝など赤子同然。
勇猛果敢な戦いを展開しても、指先一つでペッチャンコ。勝ち目ナシ。
「カァ! カカァ。」 ドケヨ! ツッツクゾ。
巨体を揺らしてオラオラするのは山守社、山守神に仕える山越烏。山越は山守の北にある山で、平たいのは頂の辺りダケ。
「カァ? カァカァ。」 ハァ? ナニイッテンノ。
体は小さいが眼光が鋭い祝社、祝辺の守に仕える平良の烏。平良は祝辺の南西にある山で、大きく開けた地が広がっており豊か。
「カカァ、カァ。」 イタイオモイヲシタイノカ、オイ。
山越烏は骨太ガッチリ系。
摂取した栄養素を余すことなく吸収するので、とっても効率的。チョッピリ荒っぽいケド、真面目に働く企業戦士タイプ。
「カァ、カァ。」 ハァ、ヒケ。
平良の烏は着痩せして見える。
黒く艶やかな羽の下には、鍛え上げられた筋肉が隠されている。食べる物がタップリあるので追い払われる事が無く、心も体も健やか。爽やかで有能な執事タイプ。
山越烏と平良の烏が不仲なのは、山守と祝辺が不仲だから。なんて噂されているが、そんな事は無い。
山守の地は日当たりが悪く、思うように食べ物が育たない。祝辺からの援助が無ければ困る、生きてゆけない。
なのに突っかかるのは、イロイロとっても羨ましいから。
山守社の祝はオカシイ。
祝になるまでは穏やかで優しいのに、祝になると人が変わってしまう。アチコチから強い力を持つ人を差し出させ、山守神へ捧げようとするのだ。
ソレを止めるのが祝辺。
祝辺には数多の祝が居る。死んだ人の守が隠の守となり、祝にされてしまった者の魂を導くから。
『なぁんだ』と思われますか?
生贄は生贄として死ぬのではアリマセン。祝として召されるのです。祝の力が無くても祝となり、その命を散らせる。それが山守の生贄。
「もうイヤァ! 要らないわ、要らないったら。」
山守神。衣を被られ、オイオイ。
「呪いなの? 呪いよね。他には考えられないわ。お願い、誰か呪いを解いて。お願いよぉ。」
清めても清められないのですから、呪いとしか考えられません。祝の力も無いのに祝にされ、殺された人が山守社の祝を呪っているのでしょうか。