10-77 お酒じゃなくても良いの
明里の地に移り住む者が増え、荒れ果てた地を整えた。元は松田に滅ぼされた里や国。人が暮らすのに良い、開けたトコロばかり。
「待ってぇ。」
「早く、早く。」
田や畑でイロイロ育て、山で食べられる物を採る。狩りをしたり釣りをしたり、機で布を織ったり縫物をしたりイロイロ。
初めはオドオド怯えていた。
親と死に別れ、一人ボッチになったのだ。人なのに『合いの子狩り』に遭い、行倒れた子も居る。合いの子だって目の前で親を嬲り殺され、闇堕ちスレスレだった。
「明るくなりましたね。」
「そうだね。」
明里に生えている柞の大木。その洞で悪取神、使わしめ明もニッコニコ。明里の地に張り巡らされた糸から、いろんな声が聞こえるから。
社が気に入らないのでは無い。住み慣れた洞に居てもハッキリ、いろいろ聞こえるので・・・・・・ついつい。
「ごめんください。杵築大社、大国主神の使わしめ、稻羽で御座います。」
明が柞の洞から社へトンと下り、ニコニコ。
「おまたせしました。どうぞ、こちらへ。」
「ありがとうございます。」
明に案内され、ピョンピョン。
何しに来たのかって? 招待状を御持ちしました。
明里王であり、隠神でも在らせられる悪取神。そう、人に望まれた事で八百万の神の一柱と御為り遊ばしたのだ。
神様二年目にして、神議り@出雲に御呼ばれ♪
はじまりの隠神で在らせられる、大蛇神が御出で遊ばすのだ。私が呼ばれてもオカシクない、のだろうか。
「悪取神。大国主神より言伝を預かって参りました。『神議りの間、一九社で杯を酌み交わしたい』との事。」
つつっ、杯ぃ? 落ち着け!杯を傾けるダケ。固めの杯を交わすワケでは・・・・・・ナイよね。
御犬様、隠犬さま。明里は、じゃない。私はドウすれば良いのでしょう。
『御神酒あがらぬ神はない』とか何とか、チラッと聞いた事が有るような無いような?
「そう難しく御考え為さいませんように。」
ハッ! 飲めない事に、するのは難しいな。となると、そうだ。
「御気持ちは嬉しいのですが私、酒はドウモ。飲めないワケでは無いのですが・・・・・・。」
葡萄とかサルナシとか、酒にするよりパクンと食べたいのです。甘い実が好きなので。
「そうですか。一九社には酒に加え木の実、団子なども御座います。宜しければ一度、御会い頂けませんでしょうか。」
次の神議りの時、一九社で御会いするキッカケを作る。それが大国主神より命ぜられた用向き。
お酒じゃなくても良いの。何となく断られるような気がしたので、試しにネ。うふふ。
「はい、喜んで。」
ホッ。酒が絡まなければ、何だカンだ言われる事は無い。と思う。
犲の里の皆を守るため、死ぬと解っていて囮になった明里。松田王に『滅びの力』を揮い、敵を討ったが闇堕ち。
大貝神の代替わりに力を尽くした事で清められ、里に戻された。新たな名は悪取。悪いのを取り除き、人を救い助ける力を授かった隠。
人に望まれ神に、悪取神と為られた国つ神で在らせられる。
「行こうか、明。」
「ハイッ。」
明里は良い国だ。他では生きられない、生き難い者が支え合い、穏やかに和やかに暮らしている。このままズッと、いつまでも続いてほしい。だから私は行く。
神付き合いだって何だって、出来る事は何でもするさ。
・・・・・・気を付けよう、酒は飲んでも吞まれるな。ウン、怖くない。コワクナイぞ。
明里編でした。山守編に続きます。お楽しみに!