10-76 御暇なのですか
おっ、多過ぎないか?
次から次へと押し寄せる、合いの子を連れた人たち。中には人の子を連れたのも居る。
「なぜ人の親子が社に来るのだ。」
オカシイではナイか。人なら中の西国にある、他の地でも生きられるハズ。なのにナゼ中の東国、明里へ行きたがる。
合いの子では無く人の子だ。『この子は人を食らいません』って、何を言っている。その子は人の子、シッカリしろ。
「追い返せ!」
明里に、悪取社に送るには要る。持たせられるだけ食べ物を持たせなければイケナイ。
中の西国はな、出雲は豊かだがアレコレあって足りないんだ。なのにドッと押し寄せて、送れだ?
「大国主神。御声を、御声を押さえてくださいませ。」
使い兎、大慌て。
「稻羽、稻羽はドコだ。」
どこの社も目が回る忙しさ。
明里に受け入れられるのは『合いの子狩り』で親無しになった、人を食らわない合いの子だけ。という話だったのだが人の子なのに『合いの子狩り』にあい、死ぬか殺されるしかナイ人も受け入れられる事になった。
とはいえホイホイ送れない。合いの子ならスンナリ通るが、人の子なら調べるのに時が掛かってしまう。
稻羽は赤い目をクワッと開き白洲、ではなく受け付けで見極めている。明里でしか生きられないのか、他でも生きられるのかを。
「御暇なのですか。」
使い兎に睨まれ、ビクッ。
杵築大社は真っ黒クロと広く知られ、使い兎が足りない。
ギリギリなのだ。働き過ぎで倒れ、因幡に連れ戻されていた稻羽が大社に戻り、やっと落ち着いたがモッフモフというワケでは無い。なのに、なのにぃぃ。
クワッ!
「わかった。分かったから、ソレを下ろしなさい。」
カチカチ山から派遣された兎ではアリマセン。振り上げたのは杵でナク鍬。
「働きます。働きますからぁ。」
諸説あるがオオクニヌシとは本来、単一神格の名称ではなく出雲地方を勢力圏とする土地神、農耕神が統合され『大いなる国土の主宰者』になったと考えられている。
まぁ、何だカンだ言っても出雲系神話の中心神で在らせられる。のだが・・・・・・形無し。
「では、お願いします。」
目が血走っている兎チャンを敵に回してはイケナイ。
大社に押し寄せた合いの子をシッカリ調べ、人を食らわない事を確かめる。
食べ物を持たせて送り出し、ホッと一息。吐く間もなく次の子を調べて調べて、食べ物を持たせて送り出す。その繰り返し。
「やっと落ち着いた。」
フラフラ、パタン。
「そうですね。」
フラフラ、ペタン。
明里に送る子が多ければ多いホド、持たせる食べ物も多くなる。真中の七国より、中の西国の方が『合いの子狩り』が多かった。
「あれ?」
神も隠も食べ物が無くても何とかなる。けれど妖怪はシッカリ食べるし、モリモリ食べなきゃ力が出ないゾ。
実りの秋はズッと先。というコトは、いや待て。使い兎の多くは隠。兎は草を食べる生き物、米や麦など実が無くても生きられる。ヨシ!
大社は良くても他は・・・・・・。
「ごめんください。」
キタァ!
中の西国と真中の七国に御坐す数多の神神。使わしめ、社憑きと共に蕎麦を御植え遊ばした。
蕎麦は収穫までの期間が短く、荒地にも良く育つから。
トコロ変わって中の東国、悪取社。
受け入れた子の多くは米を持って来たので、セッセと米倉を建てる。柱を立てて床を張り、雨や獣から守るため。明里は真中に在るので、丁度良かった。