10-74 わかりますね?
瓜里は松田に滅ぼされた隠れ里の一つで、翔山の北東にあった。犲の里と同じ。ドッと攻められ皆、嬲り殺されてしまう。生き残りは居ない。
沢を下れば噴川に出るし、里がある山は豊かだ。
「にしても。」
思ったより多かった。
大貝山の統べる地で多く生まれたのは、闇が溢れた耶万だけ。
津久間、畏れ山、斑毛山の統べる地で生まれたのは、真中の七国から雪崩れ込んだのに襲われて・・・・・・。
中の西国、真中の七国で溢れた闇で、多くの人が苦しんでいる。なのにナゼ執り行わない。
数多の神が御隠れ遊ばしたと聞くが、幾柱も御坐す。使わしめの力を借りれば、一柱でも大祓は出来るのに。
「また来たか。」
『津久間では生きられない人が、松田の地に移り住んだ』という話が中の西国、真中の七国に広がった。
誰が伝えたのか分からないが、良い人なら迎えよう。けれど、悪さしなければ生きられないのはイラナイ。
人を食らった合いの子は、人を食らい続けると死ぬと分かった。
死ぬ前に子を産んでも、取り上げた合いの子が食らうので育たない。一度あの囲いに入れば死んでも出られないし、生まれた子も救われないなんて気の毒だと思う。
『獣の力』も『悪取の力』も効かんのだ。私には、どうする事も。
「おやおや。」
松川で悪いのが引っ掛かった。
子を孕むと良く食べるので、悪いのが多ければ多いほど食らい合いが減って助かる。飢えなければ、囲いから出ようと考えない。
松田まで辿り着けるのは皆、攫われた人たち。話を聞いて『戻りたい』と言えば戻し、『残りたい』と言えば残す。
男より女が多く、男の多くは子だ。舟に残るのは痩せこけ、死にそうな人だけ。
「はじめまして。明里の合いの子、アサです。」
社を通して続続と、明里にやって来た合いの子たち。皆、親と死に別れている。目の前で殺されたのだ、人を見ると怯え泣く。
大泣きするのでは無い。ツゥっと涙を流し、動けなくなってしまう。
「合いの子?」
祝じゃないのに、どうしてキラキラしているの。合いの子でも何か、清らな力を生まれ持ったのかな。そうなら良いな、羨ましいな。
「皆さん。これから社の子として、しっかり生きてください。」
父は知らないし、生きていても合いたいと思わない。けれど母は会牧で生きている。幸せに暮らしていると、会牧社のイクさまから伺った。
次の祝に為られる継ぐ子だ、偽りなど伝えない。真だと信じている。
ハヤもチカも私も、母さんと笑ってサヨナラ出来た。でも、この子たちは違う。合いの子の親だからと虐げられ、嬲り殺されるのを目の前で見た。
人を嫌い、いや憎んでいるだろう。
「明里の地に悪い人は居ません。悪い事を考えれば、直ぐに捕まります。上を見てください。」
キョロキョロしてから、社を通して悪取社に来た合いの子が見上げた。そしてギョッとする。
「明里が統べる地に、悪取神の御力が張り巡らされています。心穏やかに暮らしていればコワイ思いをせず、幸せに暮らせます。けれど、もし悪い事を考えれば。」
・・・・・・ゴクリ。
「わかりますね?」
新入りが揃い揃って、コクコクコクリと激しく頷く。
「先ず、獣の湯に入ってもらいます。新しい衣に着替えたら、明里に戻ってください。」
キョトン。
「明里の統べる地の真中に在るのがココ、明里です。明里は浦辺、海望、切岸、鞣里、瓜里など、多くの里を治めています。」
ほえぇ。
「明里の合いの子は、明里の人を守るために生き、死にます。けれど、命を軽く扱う事は許されません。」