10-72 根回しして!
出雲から明里まで、とても離れています。けれど杵築大社から悪取社に出れば、直ぐ。
「ごめんください。」
何となく洞穴っぽいのは、御犬社だったから。
御犬様も隠犬さまも犲の隠。悪取神は元、御犬社の祝。人の手で組み直されても、社にアレコレ為さいません。
「はい、ただいま。」
モフンと現れた明に稻羽、ビックリ。赤い目に白い犲なんて、神として祀られてもオカシクない。
稻羽だって、赤い目をした白い兎よ。けれど大違い。白い兎は珍しくアリマセンが、白い犲は珍しいのです。
「杵築大社より参りました。大国主神の使わしめ、稻羽と申します。」
「悪取神の使わしめ、明です。どうぞコチラへ。」
洞穴、じゃない。社の奥に御案内♪
『瓢と明里を結ばせ、共に力を揮う』か。大国主神も思い切った事を考え為さる。
「瓢は鎮の西国、郡山。人の世の外れにある、妖怪が暮らす里でしたね。」
大蛇神から伺いました。
「はい。人の世に闇が溢れ、合いの子が多く生まれています。叶うなら瓢と明里で力を合わせ、人の世を御守りいただきたく。」
「瓢は鎮の西国、明里は中の東国。神が御坐すなら考えますが、瓢と結ぼうとは思いません。御力になれず、申し訳ありません。」
「いえいえ、コチラこそ。」
明里王とはいえ悪取は神。稻羽、大慌て。ペタァと平伏し、プルプル震えた。
「この辺りは昔から蕗が多く、良いものが採れるのです。宜しければ、お持ち帰りください。」
「はい、ありがとうございます。」
フキノトウは蕗の若い花茎で、特有の芳香と苦味が有ります。稻羽の好物は蒜。つまりフキノトウも大好き。
「ただいま戻りました。」
美味しそうな蕗をいただき、ウッキウキ。
「オ帰リ、稻羽。」
大国主神、ボロッボロ。須勢理毘売、仁王立ち。全てを察した稻羽、ペコリと頭を下げススス。
「いっ、稻羽ぁ。」
「明里に頼れナイなんて・・・・・・。」
明里に頼れなくなり、ガッカリ為さる大国主神に呆れ果てる稻羽。後足をタシタシ。
「瓢と結ぶのは難しくても、顔見知りになるくらいは良いよね。」
とポツリ。
「何が『良いよね』ですか。良く、良ぉく御考えください。鎮の西国と中の東国は遠く離れています。悪取神は人の世に御坐す、隠神で在らせられるのですよ。」
「そうは言っても。」
「御諦めください。もし、もし悪取神が隠の世に。」
「それはイケナイ。」
「大国主神。多くを望まず、出来る事を一つづつ。」
「そう、だな。」
『合いの子狩り』にあった、人を食らわない合いの子。苦しめ虐げられている、人を食らわない合いの子。親無しになった、人を食らわない合いの子を社を通して、悪取社へ送るよう求めよう。
合いの子なら社を通して送っても・・・・・・障り無い、ような気がする。と思う。親が居るなら舟で、松田か浦辺へ行かせれば良い。
海神に御頼みすればスイスイと、流れるように着けるハズ。
「稻羽、急ぎ使いを。『合いの子狩り』により親無しになった、人を食らわない合いの子を社を通して、悪取社へ送るよう求めよ。」
「その前に先ず、悪取神に。」
根回しして!
「そうだな、そうしよう。」