10-71 振り返らずとも
人を襲わない、食わらない合いの子に限り受け入れる。
親無しは社を通って、親と移り住む者は舟で明里へ。どれだけ来るか分からないが、海望と切岸だけでは難しかろう。
急ぎ鞣里を整える。他に谷望、翔山、究玉も。何れも川で行き来できるし、松川から海に出られる。
松田と松裏は今のまま、悪いのを誘き寄せたり獄として残す。受け入れた合いの子や人が悪さすれば、松裏に流れるよう仕掛けよう。
疑うワケでは無いが、中の西国や真中の七国から来るのだ。万が一に備えねば。
「テイッ。」
中の西国や真中の七国で『合いの子狩り』が行われていると知り、多くの者が心を痛めた。合いの子を引き取り、育てている妖怪は特に。
取り上げた子が皆、大きくなったワケでは無い。腹を食い破ったり母を食らったり、人の味を覚えてしまった合いの子は殺すしかなかった。
母も子も救えなかった事、今でも忘れられずにいる。
「トリャッ。」
明里は隠の国。隠、人、合いの子が仲良く暮らしている。狩りに釣り、山の手入れや機織りなど、いろんな事を教わりながら。
悪取社がある明里から張り巡らされた糸は、人を食らおうとする獣や悪いのを捕らえてくれる。だからキノコや木の実を採りに山に入っても襲われない。
合いの子や大人が付き添い、目を光らせるケドね。
「一休みするか。」
親無しは悪取社に引き取られ、離れで暮らしている。
元は松田に滅ぼされた隠れ里。荒れていたが田も畑も、手を入れれば使えるようになった。だから同じように浦辺、海望、切岸も皆で力を合わせ、整えたのだ。
松川を上れば着く鞣里は悪取神と使わしめ、明により整えられた。だからドッと来ても受け入れられる。
明里の国長カハ、大臣ヒシ。狩頭ユウ、海頭メイ、子頭ウミの五人は大忙し。アサ、ハヤ、チカが合いの子を纏め、シッカリ支えている。
「こんなモンかな。」
采、悦、大野、光江、安の生き残りは思い知る。耶万に背けば片付けられると。
長が耶万に裁かれた事が広く知られ、他も大人しくなった。暫くは戦を仕掛けよう、他に攻め込もうナド考えない・・・・・・ハズ。
大貝山の統べる地では合いの子はモチロン、人狩りなど行われていない。そんな事をすれば? 闇の種を植えられマス。
逆さ吊りでポイ、タプタプ袋にドボンかも。
「大国主神。どうか御考えを」
「いや決めた。悪取神を国つ神と認め、広く知らしめる。秋の神議りにも御呼びするぞ。」
「それは良い御考えだと思います。けれど」
「そうだろう、そうだろう。でだ。瓢と明里を結ばせ、共に力を揮うよう強く、強く請い求める。」
ソレ難しいから。お願い、兎のカンを信じて。
「そうそう稻羽。妻問いするから、良い娘がぁ?」
振り返らずともワカリマス。須勢理毘売ですね、御怒りですね。
「では、これにて。」
ピョン。
「待て稻羽。・・・・・・いや、これはソノ。」
「明里とは、どのような娘なのですか。」
御犬社の元、祝です。人だった時の名が明里、隠の名は悪取。使わしめ明の閃きにより、里の名になりました。
娘でも女神でもアリマセン。
「さぁ。でドド、どの辺りから。」
冷や汗ドッバァ。
「『明里を結ばせ、共に』からですわ。」
オホホ。
「明里ハ隠の国デス。悪取神ハ隠デ、合いノ子狩りデ苦しム者ヲ受け入れルと。」
「それは良い御考えですね。」
「ヒャイ。」
恐妻家、背筋ピーン。