10-70 御許し、いただけますか
聞かれてシマッタのだ、どうするコトも出来ない。開き直って進めよう、オウッ。
「それは・・・・・・、大事だね。」
耶万神。出雲から戻ったマノから、大社でのアレコレを御聞き遊ばし、思わず苦笑い。
「はい。」
見聞きした全てを御伝えしたマノ、ゲッソリ。
「帰りに少し寄り道したのですが、アチコチで合いの子狩りが。私、思わず目を背けてしまいました。」
真中の七国より、中の西国の方が酷かった。
惨い殺され方をした親に縋る子が、濃く深い闇に呑まれて堕ちる。それを祓う祝は居らず、現れ出られた神は禍津日神。
禍を求め、闇に堕とす事を人が望むのだ。どうしようも無い。
全ての合いの子が捨てられ、人を食らうと思われているようだが違う。
生まれて直ぐ母から引き離され、獣を食らった子は育つ。合いの子の扱いを見た人がコッソリ、合いの子を孕んでしまった人を助けたのだ。
そうして生まれた合いの子を、『好いた女が産んだ子だから』と引き取って育てる男だって居る。
「明里でなら、幸せに暮らせるだろうに。」
「はい。伝えるかドウか迷いましたが、悪取神の御許しなく伝えるのはドウカと思いまして。」
「そうだね。」
気の毒だと思う。もし国つ神が御坐せば、社を通して御伝え出来る。けれど数多の神が御隠れ遊ばし、現れ出るのは軍神か禍津日神。
私も禍津日神だ、解る。
認められたくて望まれるまま、耶万に禍を撒き散らしたよ。だがイケナイ。そんな事をしても傷つけるダケで、誰も幸せに出来ないのだから。
「どうしたモノか。」
隠の世が開いていれば、使い隠が動くだろう。
閉ざされている今、動ける隠は。苦しみ怯える合いの子を救えるのは一柱、明里王でも在らせられる悪取神のみ。
御伝えしたい。けれど、いや迷うな。耶万の地で無くても、大貝山の統べる地で無くても、中の東国で無くても同じやまと。
「マノ。戻って直ぐに悪いが急ぎ、悪取社へ。」
「はい、喜んで。」
『合いの子狩り』とは、何と恐ろしい事を考えるのだ。人という生き物は。
闇堕ちした妖怪が人を襲い、合いの子が生まれた。その合いの子が人を襲い、生まれたのが新たな合いの子。
合いの子も新たな合いの子も生まれて直ぐ、母から引き離して獣を与えれば人を襲わないし食わらない。社を通して広く伝えられた事なのに。
祝の力を持つ人が居なければ、神が御坐しても伝わらぬ。もし伝わらず、望まれぬまま生まれた合いの子が人を。
そうなれば誰もが恐れ、殺そうとするだろう。救いたい助けたい、けれど・・・・・・。
明は人に姿を見せられるが、まだ人に化けられない。人が使う言の葉を話す、赤い目をした白い犲が現れれば恐れ、傷つけようとするだろう。
もし明が人に傷つけられたら、殺されでもしたら私は堕ちる。
「『合いの子狩り』が行われている地に祝か、祝の力を持つ人は。」
「どちらも殺され、そのまま。」
そう、だろうな。犲の里だって滅ぼされ、人が死に絶えた事で闇の力、『獣の力』も『滅びの力』も失われた。明里の誰かが生まれ持つ事は無い。
私に引き継がれたのは御犬様、隠犬さまの御導き。御隠れ遊ばしても里を、私たちを遠くから御守りくださるのだろう。
私に何が出来る、私に出来る事は何だ。
「私は望まれ、神になりました。けれど明里王。国長に任せたとしても、幾日も離れられません。」
調べるのに幾月、いや幾年かかるか分からない。
「数多の神が御隠れ遊ばしましたが中の西国、真中の七国にも御坐します。長く仕える使わしめなら人に化けたり、夢に出て思いを伝える事だって出来るでしょう。大社へ願い出てても、宜しいでしょうか。」