10-69 既に手遅れ
杵築大社にて大国主神。耶万神の使わしめ、マノから告げ知らせにビックリ為さる。
「それは真か。」
「はい。隠の国である明里に押し寄せた兵から、人ならざるモノの闇が見つかりました。悪取神が捕らえ為さった兵を耶万社で引き取りましたが、それはそれは禍禍しい闇で。直ぐに切り取り、水引社へ。」
白い獄に入れられている間は悪取の力で清められていたが、ユイが触れて消えたらブワッと溢れ出したのだ。裁くために集まっていた皆、揃ってビックリ。
人ならざるモノの闇を抱えていたのは、加津に仕掛けた兵も同じ。
闇堕ちスレスレの軍神が舟に憑くか、潜んでいなさったのだ。沖で海に落とされた兵と共に、隠の和邇により海社へ。
「真中の七国に御坐す数多の神神が、闇に魅せられたと思われます。悪しきモノを奪う『悪取の力』を御持ちなのは、人の世に一柱。」
ゴクリ。
「人の世に隠の国を建てる許しを大蛇神より、神に御為り遊ばす前にいただいた国つ神で在らせられる悪取神。犲の里は千砂、浦辺は加津との繋がりが有り、明里は腰麻と結びました。」
先の神議り、悪取神は御呼ばれサレズ。
やまとに御坐す全ての国つ神が集い座して議られるワケではナイ。けれど大蛇神、はじまりの隠神が御認め遊ばした隠を仲間外れにシタとあっては・・・・・・。
頭、真っ白。血の気サァッ。どどっ、どうしよう。
『人の世の事は人の世で、隠の世の事は隠の世で』が大蛇神の御考え。とはいえ、アレレ。人の世に隠の国を建てる許しを、なぜ隠神で在らせられる大蛇神が。
イヤイヤ待て待て。悪取神は神に御為り遊ばす前に隠の国を、明里を建て為さったのだ。何の障りも無い、よね。
「耶万は何れ、明里と結びます。社を通して行き来しておりますので、そう難しい事ではアリマセン。」
ヒョエッ!
「おニの国か、はハは。」
大国主神。御目を泳がせ、カクカク。
「オろチの神ガお認めアそばシタのだ。人のトキにオニの国、良いデハなイか。」
御声をコロコロ転がし為さり、ニゴッと福笑い状態。
悪取神は人に望まれ、国つ神と御為り遊ばす。
犲の里は松田に滅ぼされ、松田は耶万に滅ぼされた。松田は大貝山の統べる地の端近くに在った国で、その縄張りは白い森と海、大磯川と椎の川に挟まれている。
明里は松田の縄張りだった、全ての地を任された。
明里王は悪取、人だった時は御犬社の祝。闇堕ちするも大貝神の代替わりに力を尽くした事により清められ、里に戻され悪取となった。
『悪取の力』に加えて、里の者が死に絶えた事により消えたハズの『滅びの力』と『獣の力』を授かったのだ。治めの隠として隠の世に迎えられてもオカシク無い。
そんな神が人の世に、隠の国の王として残られ、いや御坐す。
明里は大貝山の統べる地にあり、耶万に組み込まれたのでは無く、付き合いがある国。暮らすのは隠、人、合いの子。
人と妖怪から生まれた合いの子が、人と交わり子をなした。それが新たな合いの子。人の世では生き難い、暮らし難い子を引き取って育て為さるとは!
「そうだ、引き込もう。鎮の西国には妖怪が暮らす瓢。中の東国には、隠の国である明里が在る。二つを結ばせ、中の西国と真中の七国のアレコレを片付けさせれば良い。うんうん、良い考えだ。」
「大国主神。悪巧みが全て、御口に。」
「稻羽、急ぎ明里へ。瓢と結ぶよう、にっ。」
ジィっとマノに見つめられている事に御気付き遊ばし、アワアワ。冷や汗ドッバァ。
「ドコまで聞いた。」
「『そうだ、引き込もう』から『うんうん、良い考えだ』までで御座います。」
既に手遅れ。
「そノ、聞かナかった事ニ。」
なりません。