10-66 口に出せなくても伝えたい
光江、悦、大野、采、安の長に『滅びの力』を使い、光江に集めさせる事が決まった。
何れの地にも社は在るが空。ドコとも繋がっておらず、全く使えない。
光江と悦の長は光江の外れ。大野、采、安の長は安井に集まる事が多いそうだ。何れも冬は越せたが食べ物に困っており、幾度か千砂と加津に仕掛けるもボロ負け。
妖怪の国守が居ない浦辺に狙いを定め、動き出す。
「久しぶり。生きていたか。」
五人の長たちは知らない。
「何とかな。」
罠だと。
「にしても遠いな。」
操られていると。
「何を言う。」
捕らえられたと。
「川と海は違うんだ。」
助からないと。
犲の里で生まれ育った御犬社の者は皆、馬で森を駆け抜ける事など何でも無い。祝だった悪取は今も変わらず、四つ足の扱いに長けている。
使わしめは犲、四つ足だ。
明を抱き上げ、明里に張り巡らされた糸の上へ。そのままスススと進み、白い森の端に出る。
ピョンと飛び降り跨って安、大野、采の順に回った。それぞれの長にチョンと触れ、光江に集まるよう仕向け為さる。
采から真っ直ぐ明里に戻ると、明を優しくナデナデ。
野で生きる犬と違い、山で生きる犬は人に懐かない。けれど明は犲だが使わしめ。神にモフられ、ウットリするのは当たり前。
耶万社へ向かわれる悪取神を、尾を振って御見送り。
「凄いな。」
御犬社。御犬様、隠犬さまも犲の隠で在らせられた。隠は何があっても隠なのだが、御隠れ遊ばす。
里の人が死んで滅んだからじゃない。死んだ人たちが迷わず根の国へ行けるように、闇に呑まれず旅立てるように清めてくださったから。
受け入れた隠たちと共に。
社の司は『獣の力』、祝は『滅びの力』を生まれ持ち、死ぬまで失われない。死ねば里に生まれる嬰児に、その力が受け継がれる。
隠の国でもあった犲の里は松田に滅ぼされ、里の人は残らず殺された。
御犬様、隠犬さまの御力が悪取に引き継がれたのはナゼか。隠の国を統べる者に選ばれたから。人を、他では生きられない、生き難い者を守れると認められたから。
「御犬社の者は弱くても皆、守りに強いのだ。」
蛇谷の祝に憑く照は蛇だが隠。白い森を抜け幾度か、犲の里を訪れた事がある。人である社の司に見つかり、犲に咥えられたままコンコンと叱られた。
社憑きで無くても祝に憑いているのだから、社を通してから来るようにと。
面白くなってしまった。
次こそ見つからず、里に入ろう。次こそ、次こそと懲りもせず。その度に社の司に叱られ、シオシオ。祝に優しく諭されて、ポイと蛇谷に送り返されたな。
「照、とっても楽しそう。」
「フフッ、分かるかい?」
蛇谷と犲の里は離れているが、隠なら一っ飛び。白い森を通るので気を遣うが、お隣サンに会いに行くようなモノ。楽しかった。
けれど・・・・・・犲の里が松田に攻められ、滅ぼされてしまう。
殺されると解っていて囮となった祝が、松田王に『滅びの力』を揮った。明里は里の皆を守るため、たった一人で戦ったんだ。
私は深い悲しみが怒りに変わらぬよう、蜷局をキツク巻いて耐えたよ。泣いて、泣いて泣いて。
「アコ。アレらを片付け、落ち着いたらで良い。悪取社と耶万社が結ぶよう、考えてくれないか。」
御犬様、隠犬さま。犲の里の皆も見守って御出でだろう。
明里王として、神として守り続ける明里、いや悪取神を。煇がアコを見守るように。
「そうだね。明里と耶万では無く、悪取社と耶万社が結べばイロイロ守れる。とても良い考えだと思うよ。」