10-63 お土産に
耶万に限った事では無いのだろうが、悪いのを裁いても裁いても新しいのが入ってくる。耶万に組み込まれた村や国に、他のが仕掛けたり攻め込んだりイロイロ。
ソレを捕らえて裁くまで、どうしても時が掛かってしまう。だからドンドン新しいのが建てられるのだ。
霧雲山の統べる地には、裁きを担う山が二つ。釜戸山は人。乱雲山は人では無い者と、国と国のイザコザを収める。霧雲山は偏らず、正しいと認められる様を示す。
霧雲山の統べる地は祝辺の人の守が王として治め、隠の守がソレを支えているから恐ろしく強い。
耶万はそれら全てを耶万社が担っており、王は社の司に逆らえない臣と同じ。
とても広い地を治めているにも拘らず、裁くのは耶万社一社。『どこか他でも担ってくれれば』と考えてしまう。
「ごめんください。耶万社の継ぐ子、アサです。戦を仕掛けるよう唆した悪いの、引き取りに参りました。」
耶万から明里へ、祝の力を使って来たアサ。闇からピョンと飛び出し、悪取社の前でニコリ。
「はじめまして。悪取神の使わしめ、明です。松田の外れにある獄まで遠いので、私の背に乗ってください。」
イイ感じの大きさになり、ペタッと伏せた。
「はい。」
アサがヨイショと跨り、落ちないよう頬をつけ、手足に力を入れる。
「首に巻いてある紐を、両の手で持ってください。」
後頭部から肩に向かって、ユックリと掌で撫でた。
「アッ、これか。」
『紐というより細い布だな』と思いながら握ると、フワッとしていてビックリ。
「柔らかい。」
「悪取神の御力です。上に張り巡らされている糸と同じですが、痛くないように編んで、私の首に結んでくださいました。」
お気に入りなの、ウフフ。
「わぁぁ。」
大木から空が透けて見える糸が、蜘蛛の巣のようにピンと張り巡らされていた。
明里のアチコチから悪いのを集め、獄へ運ぶのだろう。上のはアッチ、下のはコッチに向かって動いている。
翼を広げたままプラァンと、鷲がぶら下がっていた。
・・・・・・食べるのかな、食べるよね。丸丸として美味しそうだモン。
「行きますよ。」
ポンと大きくなって駆け出す。
タッタカぴょん、タッタカタ。幾度か広いトコロに出たが、墓を見つけて思う。松田に滅ぼされた里や村、国なのだろうと。
「着きました。」
ポンと小さくなり、ペタッ。ヒョイと飛び降りる。
「ありがとうございます。明さま、アレは何ですか。」
白くて大きいモノが、ドンと離して置いてある。何れも清らだが、気を抜くと引き込まれそうだ。
「獄です。開いて留めているので、このような形になりました。」
両の手足を引っ張るように縛られた人が、ズラッと横に並べられている。首は動かせるようで、助けを求めるようにパクパク。
けれど、何も聞こえない。
「外からイロイロ入りますが、中からは何も出ません。舌を噛めないよう、獣の皮を被せてあります。このまま運んでください。祝が触れれば、スッと消えますので。」
「はい。」
白い獄ごと闇に入れ、フゥと一息。それからニコリ。
「悪取社へ、お送りします。」
モフン。
松田の外れから明里、悪取社に戻る。
お土産に真ん丸い鷲をいただいた。血抜きされ、腸も抜かれている。羽は矢を作るのに要るだろうと、そのまま。
「ありがとうございました。悪取神に宜しくお伝えください。」
「はい。お気をつけて。」
ペコリとお辞儀してから、闇にヒョイ。